日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 会計業界 )

村田公認会計士事務所所長 村田守弘氏インタビュー

この度、日本公認会計士協会東京会主催で、9月8日(土)及び9月14日(金)に準会員を対象に「海外事業における移転価格税制を学ぶ研修会」が開催されます。
この研修会に先立ち、講師の村田守弘先生にインタビューを実施致しました。

村田公認会計士事務所所長 村田守弘氏インタビュー

 

中堅企業の成長戦略達成に求められる若手会計士とは? 

~国際社会に通用するプロフェッショナルとは何か~

 

この度、日本公認会計士協会東京会主催で、9月8日(土)及び9月14日(金)に準会員を対象に「海外事業における移転価格税制を学ぶ研修会」が開催されます。

この研修会に先立ち、講師の村田守弘先生にインタビューを実施致しました。

 

村田守弘先生には、この研修会の目的をはじめ、感性を養う方法についてAKB48 総選挙を辞退した前田敦子さんの票がどこに流れたのかを題材にしたお話や、若手へのアドバイスとして昨年逝去したApple社CEOのスティーブ・ジョブズ氏のスピーチを題材にお話をしていただきました。

 

また、このインタビュー記事の最後に、移転価格税制に関係する事例を例示しております。9月の研修会の予習にもなりますので、お時間のある方はご一読いただけますと幸いです。

 

「移転価格税制」について、準会員の中でも、特殊な領域の業務を経験した方ですと馴染みがあるのですが、そうでない場合には、なかなか馴染みがない方々も多くいるかと思います。

今回の研修会の目的について教えていただけますでしょうか。

 

移転価格税制は、大手監査法人やグローバル企業に勤めている方にとって必要な知識であると思います。だからといって会社法監査の対象となる企業を主に担当している準会員の方にとって不要な知識かというと僕はそうではないと思います。

 

上場企業は現在3,600社くらい(2012年7月31日時点)あると思いますが、中小企業ですと15万社と、ものすごくあるわけです。公認会計士が関与している分野は、大多数は中小企業になってくる。

ここで、「中小企業」について考えたいのですが、やはり売上ベース億単位をいくようなところは、上場していなくても中小企業ではないと思います。ですから、「中堅企業及び中小企業」というのが適切じゃないかと。準会員の方の多くが従事しているのは、上場企業と非上場の「中堅企業」に対するサービスを提供していると考えてもらったらいいんじゃないかと思うんですよ。

 

中堅企業の状況について言わせていただくと、中堅企業は海外に出ていかないとやっていけない。表現は古いけれど、企業の形態を例えると、親亀の上に子亀を乗っけて、子亀の上に孫亀である孫会社が乗っかっている。このとき、親亀の大企業が海外に出るとなると、子亀である中堅企業及び中小企業も出て行かないとやっていけない。

 

海外に出ることが重要になってくると、僕はこのような研修会は非常に大事だと思っています。というのは、大手企業では、内部でそれだけの人材とか研修の機会を調達することができるけれども、中堅企業及び中小企業はそうはいかない。海外に出て行くとなると、ヤミクモに出て行く傾向があります。

そういうときに関与している会計士である準会員の皆さんが、適切にアドバイスしてあげることが重要だと思うんです。

 

そういう意味では、今回の「海外事業における移転価格税制を学ぶ研修会」は、準会員にとって重要性がありますよね。細かい点まで知っている必要はないけれども、ポイントポイントは知っていないといけないのかなぁという気がするんです。

 

今回の研修会には5つのポイントがありますね。

 

そうですね。移転価格税制とか過小資本税制となると、どうも税制が先にきてしまって頭に入りにくいと思うんですよ。

1つ目のポイントである「外需取り込みによる成長戦略」ということはどういうことかというと、イメージとしては日本で何かするということなんです。例えば日本で作ったものを、海外で販売していくというのが外需取り込み。中堅及び中小企業はそこが大事になります。新聞やマスコミでは海外進出と言われているけど、特に海外に出られない中堅及び中小企業にとって成長するためには外需取り込みが大事なんですよ。

 

2つ目のポイントの「海外現地生産」というのは、まさに工場移転していくということ。このとき、移転価格がどのように関わっていくのかということを研修会で話そうと思っています。移転価格税制の条文、例えば租税特別措置法第66条の4などプロフェッショナルとして知らなくてはいけないところは、講義の後に調べてもらえれば構いません。

 

3つ目のポイントである「移転価格税制と関税の関係について」は、外需取り込みをする上で重要になってくるのは海外での移転価格税制と関税だという話です。移転価格税制と関税はコインの裏表みたいな訳ですよ。今回の研修会でのテーマにはしていないのですが、消費税もすごく大事です。消費税は、海外で言うと付加価値税ですね。

 

4つ目のポイントである「FTA/EPA/TPPの下での国際税務について」というのは、今騒いでいるTPPがあると思うけど、TPPの前にFTAやEPAについて理解していただきたいです。これらが国際税務とどう絡むのかというと、関税が絡んでくるんです。

 

もしFTAやEPA、TPPが結ばれると関税がゼロになる。みんな、イメージとして関税ゼロになると価格優位性が出ると思う。でも、関税がゼロになっても、消費税(つまり、付加価値税)はかかるんです。日本の人は、海外でも消費税がかかるということを理解している人が少ないように思います。

皆さんが移転価格税制についてポイントをわかっていれば、会社の経営者なりに対しても海外での価格競争力についてアドバイスすることができますよね。

 

5つ目のポイントについては、知識の問題ではなくて、心構えについて話そうかなと思っています。皆さんもそうだと思うけど、会計士試験に受かった直後の1~2年は、頭の中は会計のことでいっぱいではないでしょうか。監査と会計のことだけはアップデートしているけど、税務の知識は忘れていってしまいますよね。

そうなってくると、準会員の皆さんは自分たちがグローバルに通用する人材といえるでしょうか?あとは、英語は流暢に話せるけど専門知識がゼロという人は、グローバルに通用する人材でしょうか?

 

「自分はグローバルに通用する人材だ」と思える準会員は、少ないかもしれません。

 

ですので、若い人には感性を磨く術を知ってほしいです。

感性とは、基礎をしっかり築くということなんです。新聞だけでなく雑誌を読んだり、こういう研修会に出たり、学者の先生が研究したような色んな報告書を読むことを通して、自分の感性を養ってほしいですね。

 

感性を養うということでは、すごく話は飛ぶんだけど、AKB48の選挙があるでしょ。

トップだった前田敦子さんが棄権したけど、日本のマスコミやテレビは、彼女の前回の20万票がどこに流れたかということについて触れていない。AKB48の選挙結果について、ベスト10しか流さないんですよ。

僕はあとで知ったんだけど、今回のAKB48の投票行動の変化は何かというと、30位とか50位とかの人に前田さんの票が流れているということ。

ああいう総選挙に参加・投票している人は、すごく思い入れがあるんですよね。思い入れがあってAKB48のCDを買って、思い入れのある人に投票していった。いわゆるロングテールの選択をしてAKB48のCDを買っていった。しかしマスコミはランキング上位しか注目しないから、AKB48のファンが何に熱狂して、何に対して誰に対して向いているか見えてこない。つまりマスコミが触れていない部分は多いのです。

ですから、何が起こっているかを知るのは良いけど、感性を磨くとなると新聞やテレビだけでは磨けないということなんですよ。

 

今回の研修も税法だけとせずに、その中にある例えばFTA,EPA,TPPについて、みなさんが本も読んでみようという気持ちになれば良いなと思います。

僕はやはり若手の専門家は、そういう感性を磨くのがすごく大事だと思います。

 

若手だとやはり会計監査とか自分の業務に関連する知識に集中しがちになってしまいますよね。それ以外のもっと幅広い知識を色んなソースから取って来るべきですよね。

 

それとね、最近監査をやっている人は、税務をやらなくなっていますよね。だから自分で努力しないと中堅企業をちゃんとアドバイスできる会計士になれないと思うんです。そこを伝えたいですね。

 

税務をやるときには、税法の条文を読まないといけないです。専門家としてのアドバイスをするので、解説書だけ読んでいてはいけない。会計の場合も解説書や意見書だけ読んでいるのではなく、ちゃんと基準を読むでしょう?それと同じです。

 

あと、立場もあると思いますが、昔僕が会計監査をやっていたときに言われたのだけど、外の人として見られるか、内の人として見られるかがプロとして大事なんだと思います。   つまり、外の人として見られたら本音は言わないわけで、内の人として見られたら本音を言ってくれるわけです。プロになるにはどちらを目指すか。

特に中堅企業を見る場合には、外の人として見られたらだめですよ。大企業の監査なら良いけどもね。大企業の人は、所詮、会計監査を必要経費として見られていますからね(笑)。

 

大手監査法人で上場企業や1兆円企業を監査していると、準会員や若手会計士には相談に来ないと思います。でも中堅企業を見ていたら、相談を受けることは避けられない部分が出てきます。

大事なのは、中堅企業を見ている準会員あるいは若手会計士が世の中の変化を知ることです。例えば外需取り込みだったら、その話をしていく上でそこに絡んでいく国際税務の話もできますよ、というアプローチで話せるということですね。

 

感性を養うということで、少し話が飛びますが、今でも僕が少し国際税務の仕事が出来ているのは、専門知識と英語というものがあるということだと思っています。

やはり1979年から1986年の7年間ニューヨークにいて、まだ日本人が沢山いる時代でもないから自分ひとりの気持ちで行ったわけですよ。海外に商社で行った人は日本人に囲まれているから英語は上達しないけど、自分は外資系で外人の中にいるから、かなり日本人の中では英語が上手くなったと思っている。でも1986年だから25年も前で、やはり言葉はさびてくるんです。特に日本語以外の、英語はね。

 

帰国してから英語を使わなくなった、ということでしょうか。

 

帰国しても仕事で英語は使っています。

ですが、使っていてもさびてくるんです。どこかでさび落としをしなきゃと思って、最近は1カ月くらい集中してYouTubeで色々な人の話や演説をコピーして朝電車の中で聞いています。そうすると英語を聞く耳がね、少しずつ蘇ってきますよ。

さび落としをしていく中で、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での学生へのメッセージを聞いたのですが、それをここでぜひ準会員の皆さんにもぜひ知っていただきたいと思います。

 

< スタンフォード大学の卒業生に贈るメッセージ(抜粋)>

 

ありがとう。今日は世界で最も優秀と言われる大学の卒業式に同席できて光栄です。今日は、私の人生での3つの話を紹介します。

 

1.点のつながりの話です。(ABOUT CONNECTING THE DOTS.

(経済的事情等の理由でスティーブ・ジョブズは、有名なリード大学を中退しました。中退を決めて中退するまでの期間、必修科目は捨て、興味を持った科目のみ出席しました。そのことに関連して、装飾的書法の講義を受けたことを例にして話しています。装飾的書法の講義を勉強したことを“点”と彼は呼んでいます。)

 

装飾的書法を知ったことは、人生に役立つという期待すらありませんでした。しかし、それから10年経って最初のマッキントッシュ・コンピュータを設計する時点に、その知識が役に立ち、マックの設計に組み込みました。こうして初めて美しいフォントを持つコンピュータが誕生したのです。

もちろん大学にいた頃の私には、未来を見通した点を持っていた訳ではありません。しかし10年後に振り返えると、とてもハッキリ見えることなのです。未来を見通した点を見ることはできないが、過去を振り返ってみるとふたつの点がつながっていることは明確に分かります。だから今の点はいつか何らかのかたちで別の点につながると信じる必要があります。自分の根性とか、運命とか、人生とか、業とか、何かを信じることです。歩む道のどこかで点と点がつながると信じれば、自信を失うことはありません。信じることが自分の人生の全てを変えてくれるのです。

 

2.愛と失うことの話です。(ABOUT LOVE AND LOSS.

(スティーブ・ジョブズが30歳の時、自分が起した会社“アップル”から彼は解雇されます。それは、他の経営陣と採るべき経営方針の違いが原因でした。解雇されてから数ヶ月間は、茫然自失の状態(失った状態)になりましたが、スティーブ・ジョブズは再起することが出来ました。再起するプロセスを、彼は“愛”と呼んでいます。)

 

私が今まで続けられてきたのは、自分がやってきたことを愛しているから、ということにほかなりません。君たちも自分が好きなことを見つけなければなりません。それは仕事でも恋愛でも同じことです。これから仕事が人生の大きな割合を占めるのだから、本当に満足を得たいのであれば進む道はただひとつ、それは自分が素晴らしいと信じる仕事をやることです。つまり、好きなことを仕事にすることです。もし見つからないなら探し続けることが大事です。あきらめないことです。恋愛と同じで、見つかったときに分かるものです。素晴らしい人間関係と同じで、好きな仕事は年を重ねるごとに自分を高めてくれるものです。見つかるまでは探し続けることです。決してあきらめないことです。

 

3.死についての話です。(ABOUT DEATH.

(スティーブ・ジョブズはすい臓がんになりました。余命3~6ヶ月と医者から宣告されました。奇跡的に手術が成功し、彼は仕事に復帰しました。その間の闘病生活を通じて、彼は死を認識しました。死の認識を通じて会得した“生”について話しています。)

 

私は17歳の時、こんな感じの言葉を本で読みました。「毎日を人生最後の日だと思って生きてみなさい。そうすれば、あなたがなりたい自分にいつの日にかなっているはずです。」 これには強烈な印象を受けました。それから33年間毎朝私は鏡に映る自分に問いかけてきました。「もし今日が自分の人生最後の日だしたら、今日やる予定のことは本当に私がやりたいことだろうか?」それに対する答えが「ノー」の日が何日も続く場合、現状を変える必要があります。自分がもうすぐ死ぬ状況を想像することは大切です。

誰も死にたいと思っている人はいません。天国に行きたい人でも、そこに行くために死にたい人はいません。それでいて、死は誰もが向かう終着点なのです。君たちが持つ時間は限られています。他人の人生のために自分の時間を費やすことはありません。誰かが考えた結果に従って生きる必要もないのです。自分の内なる声がまわりの雑音に打ち消されないことです。そして、最も重要なことは自分自身の心と直感に素直に従い、勇気を持って行動することです。心や直感というのは、君たちが本当に望んでいる姿を知っているのです。だから、それ以外のことは、あまり重要でないのです。

 

私が若い頃 “全地球カタログ(The Whole Earth Catalogue)” というすごい雑誌があって、私の世代ではバイブルのように扱われていました。1960年代の終わり頃はパソコンもない時代ですから、全てタイプライターとハサミとポラロイドカメラの切り貼りで作られていました。それはまるでグーグルのペーパーバック版のようなものでした。すごいツールと壮大な概念に溢れかえっていました。ひと通りの内容を網羅した時点、1970年代半ばに廃刊しました。その最終号の最終ページに載っていた言葉を君たちに贈ります。

“Stay hungry, Stay foolish.”

私は、その言葉の通り、常に、貪欲でありたい、愚直でありたいと願ってきました。そして今、卒業して新しい人生を踏み出す君たちに、同じことを願っています。

“貪欲であれ、愚直であれ!(Stay hungry, Stay foolish!)”

 

やはり今の準会員の方は大人し目と言いますか、保守的でしょうか。

 

この景気低迷が続くせいもあると思いますが、stay hungry 、色んな事に貪欲であれと。

知識とともに感性を養うことができればいいですね。

 

移転価格税制という税制の講義を2時間聴くのではなく、講義を受けてみたら税制に関することも説明してたんだなぁいう方向の研修会にしたいと考えています。

ですから、そういう意味で多くの準会員の方々に研修会に来てもらいたいですね。

 

 

【移転価格税制等、国際税務に関係する事例(例示)】

・2012/6/25 デンソーが138億円申告漏れと国税指摘。

・2012/5/9  日本ガイシが160億円申告漏れと名古屋国税局指摘。

・2012/6/24 NEC100億円超の所得隠しと東京国税局指摘。

・2012/6/26 貿易交渉、停滞強まる。TPP膠着、他の競技に影響。

 

 

【村田守弘氏 ご経歴】

公認会計士・税理士

1969年、慶応義塾大学経済学部卒業。1970年、アーサーヤング東京事務所に入所。1999年、アーサーアンダーセン税務事務所代表に就任。KPMG税理士代表社員を経て、2006年、村田守弘公認会計士事務所を開設。2006年~2008年まで公認会計士試験委員を務める。2008年、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科客員教授。

ブログhttp://www.muratatax.com/で、「修了考査対策」を希望者に配布中。

 

一覧へ