日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 経営者・著名人 )

宮地俊充氏

一度道を外れたほうが楽しい会計人生活を送れます。

大学時代、「電波少年的放送局企画部 放送作家トキワ荘」に出演するなど異色の経歴を持つ宮地氏。2012年に起業された宮地氏に、起業に至った経緯やキャリアなどの考え方についてお聞きしました。

 

「一度道を外れたほうが楽しい会計人生活を送れます。」 宮地俊充氏

 

■M&Aファーム時代:「バリュエーションって、なんてクリエイティブな仕事なんだ!と思いました。」

Q  M&A業務、とりわけバリュエーション業務の魅力は何でしょうか?

監査法人では得られないようなクリエイティブな仕事の経験ができることですね。バリュエーションっていうのは、買ったあとに、こことここのシナジーでこれだけ売上が上がるよね、とかいった感じで、未来志向のクリエイティブな仕事なんです。M&Aはだいたい失敗すると言われています。そうなると、デューデリジェンスの段階で一つでも多くのリスクをきちんと見つけた者がヒーローになる。リスクを発見としたとしても、それを軽減するための施策を考えればいいだけですから。私は監査はあまり経験していませんが、監査で財務数値の誤りを発見しても、それを数字上で変更するだけですよね。そこが監査にはないデューデリジェンス・バリュエーション業務の魅力です。あとは、M&A業務だとクライアントの完全な味方になれるのは大きいですね。ただ、M&Aの仕事は結構きついと思います。プレッシャーや締切がタイトなのもありますが、とにかくメンバーの仕事に対するコミットが半端じゃない。

 

Q M&Aで会計士だからこそ出せる付加価値は何でしょうか?

二つあると思います。

一つはP/L・B/Sを完全に理解していて、かつ会計基準が変わった時の影響が分かることです。もう一つは、税務です。組織再編税制とか連結納税を理解している会計士は、M&A業界ですごく重宝されると思います。これは、適格・非適格のどちらにするかなど色々なスキーム毎に税務メリット・デメリットがあって、キャッシュアウトに直結するからです。

 

■ITベンチャーでのCFO時代:「CFO業務はスリリングです」

Q  M&A業務を1年半ほど経て、ITベンチャーでCFO業務をされたとのことですが、その魅力は何でしょうか?

CFOの役割っていうのは基本的にはひとつしかなくて、資金調達することなんですね。相性のいい投資家を探し出して、交渉して、ちゃんと着金まで持っていくっていう結果を出さなくちゃいけない。そういうところがハラハラするところでもあり、面白いところでもあると思います。CFOの仕事はやっぱりエクイティ・ファイナンスで、可能なかぎり会社のバリュエーションを上げてたくさんの資金の調達をする役割を果たさなければいけません。

 

Q その点ではバリュエーションにおいてM&Aの経験はかなり生きますね。

M&Aのクライアントは大企業で、そこでやるのは基本DCFなんですよ。だけどベンチャーっていうのはそもそも赤字のところも多いし、P/L計画の蓋然性が低いことも多いから、基本ユーザー数やトラクションに合わせて相場のPost Valuationや調達額がだいたいあるんですよ。PERでやることもあるのかな? あまり聞かないけど。つまりM&Aの経験は結局あまりファイナンスで生きないんですよ。

 

■起業:「私たちは時間も場所も合わせない英会話サービスを日本初でやろうとしている。」

Q逆にCFO業務のつらさは何ですか?

主な役割が資金調達なので、資金調達が終わった後に、仕事がなくなるという話はよくあります。バリューがだんだん出せなくなる。資金調達ってワンショットなので日常業務ではないじゃないですか。数年前のITバブルのときにCFOで入った会計士の方で、結局上場できなかったとなって、完全に営業に回っているという話も聞いたことがあります。もう事業サイドに完全にまわってやっているらしいです。私はそういう仕事が大好きですが、それは人それぞれですよね。

 

Q起業の転機は何でしょうか?

やっぱり社長っていうのを身近に見て、とにかくすごいな、って単純に思ったのもあるし、ITってすごい面白いなって、いろんな可能性があるなって思って、ITで起業しょうと思いました。去年あたりから起業のハードルがすごく下がって、支援してくれる方がいっぱい増えたんですよ。それでファイナンスしやすい体制になったから、まずはやってみようって思って、何社か回りだしました。そもそも身一つで起業したときに、自分が起業して成功するために必要なものは3つあると思いました。ひとつはお金で、あと自分がコードを書けないので一緒に夢をみてくれるエンジニア、最後にオフィス。この3つと出会えれば、サービスリリースまでは持って行けると思ったんで、投資家周りとエンジニア探しとオフィス探しをしました。

 

Q英会話のビジネスモデルを想起したきっかけは何でしょうか?

監査法人時代から英語を勉強していたんですけど、なかなかしゃべれるようにならなくて、なんでだろうとずっと考えていました。結局、自分が話すであろうシチュエーションを決めて、そこで日本語で話しているような会話を英語にして先生に添削してもらって正しい英語をゲットして、それを見ながら実際に使っていけば、実際にしゃべれるようになるだろうなって思ったんです。

 

Qこのサービスの革新的な所とは何でしょうか

Best Teacher の革新性は1つしかなくて、「非同期」です。

英会話スクールは、例えば月曜の夜9時から新宿校に行くという感じで、時間と場所を合わせる必要がある。一方、オンライン英会話スクールは、例えば夜10時からで場所は日本とフィリピンという感じで、時間は合わせるけど場所は合わせない。

私たちは時間も場所も合わせないモデルを日本初でやろうとしています。

文字とボイスメモで非同期にやり取りすると必然的にログが残るじゃないですか。そのログを使って復習した後で、リアルタイムで実践するっていうのが革命的な所なんです。

 

Q今後はどのようなビジョンを描かれていますか。

まずは今の事業を成功させることになりますね。有料会員を増やして回す、つまり今の固定費をまかなえるってところまで粗利を稼げるってところまで持っていく。その後はもう一度ファイナンスしようと思っています。その後は、きちんとバイアウトなり上場なりして、関係者全員がハッピーになれる結果を出さないといけないと思っています。

 

Q会計士として起業するメリットはどこにあるのでしょうか。

珍しいということです。メディアにも取り上げてもらいやすくなるかもしれませんね。あとは、事業計画とか資金計画とかなら普通ちゃちゃっと作れるし、仕訳の切り方も勉強する時間を取られなくていいっていうのはあります。ただ、会計士っていうのは、事業を回した経験がないから、その点のデメリットの方が大きいんじゃないかなって正直思います。

M&AとCFOと社長業だったら、絶対社長業が一番面白いと思います。やりたくない業務もやらないといけないけど、仲間を集めて家賃を払ってユーザー様からサービスの対価を得るっていうこと自体は、すごく楽しくて尊い行為だと思っていて、それを一生のうちに一度でもやると、人間的に一回り大きくなったな、って思えるはずですよ。その分、つらいことも多いですが、結局何を選択するか、ですから。

 

■最後に:「どんな仕事でも、一生懸命やると得ることが必ずあると思うんですよ。」

Q過去のキャリアが起業に役立った点はありますか?

監査法人、M&A、CFOの経験を振り返ってみて、その3つが必ず必要かって言うと、別にそうじゃないと思います。僕は仕事ができないながらも、頑張って一生懸命勉強して仕事したっていうのが、間違いなく自信や実力として付いていったと思います。どんな仕事でも、一生懸命やると得ることが必ずあると思うんですよ。

 

Q次のキャリアを見据える人に向けて一言お願い致します。

一度道を外れてみる、というのをおすすめしたいですね。私に言わせたら事業会社の方がいいんですよ。なんで監査法人に行けずに事業会社に就職したことを残念がるのか分からない。直にビジネスに携われるから、事業会社の方が絶対、力はつきますよね。

転職するのであれば、まずはたくさんの人に会うことが大事だと思います。話してみて、これ思っていたのとは違うなとか、これ面白いなとかいうのがあったら、それをやったりやらなかったりすればいい。やったことがないことなんだから、自分の中に答えがあるわけないじゃないですか。やったことのある人に、いろいろ聞けばいいだけなんです。

 

インタビュー日:2012年4月13日

 

<宮地俊充(みやちとしみつ)>
略歴:2007年公認会計士試験合格。株式会社ベストティーチャー代表取締役社長。大学時代は「電波少年的放送局企画部 放送作家トキワ荘」に出演するなど放送作家・脚本家として活動。卒業後は公認会計士試験に合格し、大手監査法人に入社。さらに、M&Aファームでデューデリジェンス・バリュエーション業務、ITベンチャーでCFO業務を経験し、英会話レッスン「Best Teacher 」を提供するベンチャーを起業、今に至る。

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