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インタビュー

藤沼 亜起氏

2011年7月15日

Friendlyであること。Frankに自分の考えを相手に伝えられること。Fairに行動すること。

会計士にもグローバル化が求められる現代。IFRS財団評議員会の副議長として世界のトップでご活躍されている藤沼氏に、国際化、 IFRSにどう向き合えばよいのかお聞きしました。

JIJAジャーナル特別インタビュー IFRS財団評議員会 副議長 藤沼 亜起氏

■視野を広げる 

公認会計士試験二次試験合格直後の1 年間は、将来は独立しようと思っていました。でも実際に働いてみて、こりゃダメだと思いました。ある日、クライアント先で海外との契約書を見た時、全く分からなかったんですよね。その時、監査人になるためには英語くらいできなくてはならないと感じ、本当にレベルアップするにはどうすべきか真剣に考えた結果、当時はまだ監査法人のような大手事務所がない時代でしたので、外資系事務所に転職しました。一流の人につきたい、お金はどうでもいいから、一流の仕事をする人の近くにいたいというのが若い頃の気持ちでした。

 当時、特に視野を広げようという意識はありませんでしたが、徐々に海外に興味が湧いてきて、希望して海外に赴任しました。日本人ほど英語にお金を掛けていて、ものになっていない国民はいません。それは、やり方に問題があるのだと思います。私も英会話教室に通った事がありましたが、それだけではなく、外国人との交流をする場であるインターナショナル・フレンドシップ・クラブにも通ったりしました。英語の上達には、英語圏の友達を作って話す機会をもつことが早道です。言語はコミュニケーションのツールなのですから文法的に間違えても気にすることはありません。そうすれば自ずと英語の力は伸びると思います。

 皆さんのような将来性のある若者は、もっと会計士として勉強してもらいたい。単に机に向かって本を読むという意味ではなく、幅広い視野を持つという意味での勉強です。会計士は専門的な知識はあるのですが、性格テストをすると視野が狭い傾向にあるそうです。専門職になりすぎているから他のところに目が向かない。会計事務所にいると、付き合う範囲は事務所内の人と会社の経理の方だけになりがちです。似たような人としか接しないから視野が狭くなるのです。でも、例えば海外に行くと日本人でも経理・財務の分野だけではない様々な人と接する事が出来ますし、外国人との交流も増えます。国内にいる場合でも様々な機会を自ら作り、視野を広げるよう心がけて下さい。 若い時から多方面に友達関係や人脈を作るのは難しいかもしれませんが、今のうちから短期の海外研修に行ったり、積極的に様々な専門外の人と交流したりして人脈のベースを作り、それを徐々に広げていくことが大切だと思います。この面では、私は今ビジネススクールの教員をやっていますが、ビジネスに必要な知識を習得し視野を広げたり、さまざまな職業分野の友人を増やすのには、夜間や週末に授業があるビジネススクールは、良い学びの場だと思います。

■議論することの大切さ

みなさんには、もっと積極的に仲間、先輩と議論し、そこから何かを学び取ってほしいと思います。職場でも優秀な方はいるでしょうから、そういう人と監査現場のテクニカルな話や、経済や国際情勢のことなど、ある程度真面目な話を議論するよう心がけると良いでしょう。例えば上司がクライアントの方とどう話しているか注意してみて下さい。「なるほど、そういう聞き方があるんだな」と思う事があると思います。

独立性に抵触しない範囲で、クライアントの方と仲良くなることも大切です。クライアントの方は会計士をしっかり見ています。だからこそ、機会を作り、それを活かす。例えば、その会社のビジネスがどういうもので、どういう状況に置かれているのか、どういう戦略で海外展開を目指しているのか聞いてみると良いでしょう。会社に興味を持ってクライアントと話をすると、相手も「おもしろい人だな」と我々に興味を持ってくれます。

優秀な人は、物事をミクロではなくマクロで見ます。会社が置かれている状況や直面している課題、我々がすべきこと、何を期待されているか、今後のあるべき対応などを常に考えるようにして下さい。広い視野で物事を考え、理論的に整理をした上で、それを実務にどう結び付けるかが大切なのです。

■世界の中の日本

 私は現在、IFRS財団評議員会の副議長として、海外の方々と仕事をしています。 IFRS財団評議員会は、国際会計基準審議会(IASB)の理事を任命することや、基準設定のデュー・プロセスなどを監視する役割があり、今回、IASBの理事に現理事の山田辰己氏(2011年6月時点)の後任として、鶯地隆継氏が選出されることとなりました。日本から鶯地氏をIASBの理事に選出することができたのは、鶯地氏が以前より国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)のメンバーとして世界でご活躍されていたことが、1 つの要因になっています。 実際、IASBの理事をどの国から出すかは、国際的な競争になっています。日本が内向きでナイーブなことを言っていると、現在持っている席も他国に奪われてしまいます。近い将来、日本がIFRS採用に踏み切らなければ「日本はいなくても構わない」と言われてしまいます。つまり、 Japan Passingです。今は会計の世界で日本が影響力を示す本当に最後のチャンスなのです。 一般的に、日本人は少数意見に配慮しすぎてしまう傾向にあります。反対の意見を言う人は必ず出てきます。主義主張の違いから意見が違うのは仕方がないのですが、日本人は反対の意見をもつ人と直接会ってビジョンを掲示し、議論したりはせず、両方の意見を足して2で割ったようなところで意見を纏めようとします。

 例えば私が日本公認会計士協会の会長をしていた時に行った会計士協会の「組織・ガバナンス改革」の議論の際も、私のところに来て、「会長、今は時期ではないよ」と先延ばしの意見を言う人がいました。それは結局「やりたくない」ということと同じです。私は反対意見のある地域会などには自分で出かけていき、改革の必要性や将来ビジョンを示して、意見交換を通じて、きちんと「説得する」ということをしました。

 国際会議での議論の際にも、この傾向は出てしまいます。海外の方は、最初の会議では馬鹿な発言をしてはなるまいと静かに様子をみていますが、雰囲気が分かった途端、積極的に発言し始めます。でも日本人は最初から最後まで黙りっぱなしになりがちです。国際会議では手を挙げて発言しない限り誰も耳を傾けてくれません。日本人は、やさしいというか、優柔不断というか、リーダーシップをとらないというか。コンセンサスで物事を決めていくというやり方だけでは、なかなか前には進みませんよね。 日本はトップダウンの意思決定が非常に弱いと感じます。しっかりしたメッセージを伝えることが必要なのです。

■ふっきれると乗り越えられる

 1980 年代の半ば、40歳ごろに日本を代表して海外に行く時、きちんと海外の方とコミュニケーションをとれるのだろうかと、正直私も最初は緊張しました。実際、最初のうちは本当の意味で打ち解けた話もできませんでした。

 でも、経験を積み重ねるうちに、ある時ふっきれたんですよね。人間はみんな同じなのだ、自分のありのままでやれば良いんだって。それが転機で海外の方とも普通に付き合えるし、何でも話せるようになりました。急にやろうとしても難しいので、徐々に経験を積み重ねていく事が必要だと思います。乗り越えなくてはならないことがあって、ふっきれて、それを乗り越えたと思っても、また次の壁がある。一生勉強ですよね。

■I FR Sが会計士の存在感を大きくする

 IFRSは原則主義ですから、その原則、論理を理解することが大切です。IFRSには細かいことは書いていません。日本基準やUSGAAP だと、どこに何が書いてあるか分かっている人が、仕事ができる人でした。でも、IFRSでは自分の頭の中で基準を整理し、それがどういう仕組みの取引か理解して、実務にその会計基準を当てはめた場合どう処理すべきなのか自分で判断しなくてはならず、そういうことが出来る人が優秀な人です。その状況は会社の経理担当者も同じです。すると、会社は会計士にいろいろ相談しなくてはならなくなります。その時、しっかりした回答ができれば、「あの人は基本的な理解はできている、知識がある」と思い頼ってもらえます。原則主義は、我々会計士の存在感を大きくする絶好の機会です。若い人達にも IFRSにはしっかり対応してもらいたい。もちろん基準を読むだけではなく、経験も含めて。海外の会計・監査実務では、会計は国際財務報告基準(IFRS)が、監査は国際監査基準(ISA)が基本です。つまりIFRS やISAが共通基準として成り立っていて、日本基準は関係ありません。これからは、世界の共通ルールをベースに議論できなくてはならないのです。

■大切にしているもの

 私は、人と接する時に大切にしている「3つのF」があります。「Friendly」、「Frank」、「Fair」です。まず、Friendlyであること。Friendlyでないと、誰も近くには寄ってきません。次にFrank に自分の考えを相手に伝えられること。そしてFair に行動すること。すると、相手は、立派な人だ、リスペクトできると思ってくれます。日本人は本質がFairな人は多いのですが、Friendlyに振る舞うことがなかなかできません。この「3 つのF」を念頭に置いて人と接すると、国籍に関わらず誰とでも上手く付き合えると思います。

■若い人にはチャレンジしてほしい

 大前研一氏が言っていましたが、T型人間を目指してください。会計の専門家というコアの縦線だけでは不十分です。ビジネスに必要な知識のみならず、歴史や文化、宗教などの知識、つまり横線の幅を広げてください。皆さんのような若い人は、たとえ数年遅れたとしてもすぐキャッチアップできます。例えば、海外に行く、そこでMBAを取るのでも良いのでしょう。知人を増やし視野を広げる機会になると思います。 最近、海外の大学で日本人留学生が少なくなっているという話を聞きます。米国や欧州など海外の方が高等教育システムは進んでいますし、授業は実務的です。日本公認会計士協会は、川島正夫先生の篤志で川島国際奨学金という制度を設けており、国際的な会計人の育成のために経済面でも十分なサポートをしています。

 日本の若い人には積極的にチャレンジしてほしいと思います。能力がある人には仕事が寄ってきます。若い時にはお金よりも自分が学ぶことを優先して考えて下さい。結果的にそういう人には仕事もお金もついてきます。若い時から常に先を見て時代のニーズを感じ取って動き、自分の技能を高める。但し、パブリック・インタレスト(公共の利益)の視点は常に自分の行動指針としてください。だってみなさんはプロフェッショナルなのですから。

藤沼亜起:1968年公認会計士試験二次試験合格後、1969年に堀江・森田共同監査事務所、1970 年にアーサーヤング公認会計士共同事務所に入所。その後、太田昭和監査法人に代表社員として加入、2007年同法人を退職。2000年に国際会計士連盟(IFAC)会長、2004年に日本公認会計士協会会長を経て、現在、IFRS 財団評議員会副議長、中央大学大学院戦略経営研究科特任教授、(公財)財務会計基準機構評議員など。

(文責:藤井 雄介)

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