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インタビュー

山田 辰已氏

2010年6月30日

1975年公認会計士2次試験合格。
住友商事株式会社、中央監査法人を経て、2001年国際会計基準審議会(IASB)理事に就任、現在に至る。

国際会計基準審議会(IASB)理事 山田 辰已氏 インタビュー

1975年公認会計士2次試験合格。住友商事株式会社、中央監査法人を経て、2001年国際会計基準審議会(IASB)理事に就任、現在に至る。

●今の会計士に思うことは?

一度、企業に入ることをお勧めしています。今の会計士は、伝票一枚切った経験もなく監査をしていることが多いですね。それで、前任者の調書見て「これと同じ資料下さい」という。これは問題かなと思っています。全員が企業に勤める必要は無いですが、企業で1から決算や税務等を体験するのも良いのではないでしょうか。私は、大学卒業後、17年間住友商事の主計部で仕事をしていたので、決算プロセスは良く分かっています。だから、監査に行って資料を見るだけでは、会計処理の現実を理解するのにちょっと足りないかなと思います。もっと「実際の企業」を学んでほしい。企業が、どのように動いているのかは、中に入らなくちゃ分からないことも多いです。昔に比べ、今は大学卒業後すぐ監査法人に入る人が多いから、企業のことをよく知らないだろうと思う。それが、企業経営者との意思疎通にあたって、非常にネックになっていると思っています。年次が上がる過程で、学んでくれればいいのですが、「企業の実態」を知らずに自分の理念だけで企業活動を理解したつもりになっていると、会社のトップと話のできない非常に視野の狭い会計士になりかねないと心配しています。

ただ、監査人には色んな企業を見られるメリットがある。監査人はいろんな業種の会社を見られるので、一つの会計基準、会計処理でも、業界ごとに違うのが分かります。しかし、一度企業で勤めてから、また監査法人に帰るルートがあってもいいと思います。そうすることで、会計士としての幅は広がるだろうと思います。

●会計士として心がけるべきことは?

この業界では、会計士の資格は当たり前ですから、資格だけでは不十分だと感じています。どういう付加価値を自分に付けていくかが大事です。例えば、英語や、ある専門分野、例えば退職給付が得意とか、自分をアピールできるものを持つことが肝心です。自分に付加価値をつけるために何をしたらいいか、常に考える必要があると思います。会計士になれば、リタイアするまでの長い期間1つの職業で働くわけです。それゆえ、人よりちょっとだけ努力していけば、5年経てば一朝一夕では縮まらない大きな差になると思います。会計士は、社会を支える高貴な職業であって、日本の経済社会の中で果たすべき重要な役割があります。その責任の果たし方には、様々な形態があると思いますが、自らの役割を見出し、それをどのように果たすべきか、といった明確な意識を持ってほしいと思っています。

●信用される会計士になるには?

かつて主計部で監査を受ける側だった経験から申し上げると、クライアントは監査チームの若手をしっかり見ています。クライアントから「先生相談があります」って来られる人はそれなりに信用されている人で、信用されていなければ相談されることもない。では、どうしたら信用され、専門家として認められる会計士になれるかというと、やはり、自分を鍛えていくことしかないです。例えば、毎日の仕事の中で分からないことにたくさん出会うと思いますが、それをいかに自分でフォローして理解していくか。小さいと思える疑問を1つずつ解決して、貪欲に身につけていけば自分の知識は大きく増えていきます。

あと、当然ですが、明らかに英語は大事です。IFRSが日本の会計基準になろうとする中で、会計士としてIFRSの英語が読めなくては始まらないと思います。和訳で理解しようなんて思うのは、会計士として志が低すぎると思います。会計処理を判断する際に、クライアントは当然英語の原文に当たっていると思いますので、職業専門家としての会計士は、当然、IFRSの重要な用語やフレーズは必ず英語で言えるくらい覚えている必要があると思います。英語が今より要らなくなることは考えられません。

●英語で大切なこと

英語は、まず聞けることが大事です。聞けないと会話になりません。英語が下手でも、論理的で、議論している問題について深く考えているのであれば、相手はそれを理解して聞いてくれます。だから、英語で会話にならないのは、英語の問題よりも自分の頭が整理されていないことに原因があると思います。日本の経済界のトップの人で、英語は喋れないけど、通訳を通して海外の人と的確に会話をして、信頼を得て、親密になっている人は多いです。そういう人は、例えば、経営の根幹に対する深い考え方が相手に理解されるので、信頼関係が構築できるのだと思います。

私も、今でも英語には苦労しています。本当に、努力しかないと思います。一番良くないのは、英語が喋れないからって引っ込み思案になることです。

●IFRSのコンバージェンス・アドプションについて

2007年の東京合意で、コンバージェンスをすることになり、日本基準をIFRSと同等な内容にすることになりました。私は、コンバージェンスに疑問を持っています。今のままだと2015年になったら、上場企業はみなIFRSを採用することになって、日本基準を使うのは大半が中小企業です。コンバージェンスでは、IFRSが変わる度に、日本基準をIFRSに沿って改訂する必要があります。そのことは、公開市場から資金調達しない企業にとっては、とてつもなくレベルの高い会計基準に従って財務諸表を作らねばならなくなることを意味します。私には、中小規模の企業に、IFRSと同等な内容を持つ会計基準を適用することが妥当かどうか疑問です。

なお、アドプションについて言うと、IFRSを知っていれば、世界中の財務諸表が読めるという利点があります。近いうちに、どこの国の上場企業の財務諸表でもIFRSで作成されるようになりますから、このことは素晴らしいことだと思います。日本の監査法人に限らず、IFRSの知識があって英語が喋れれば、世界中のどの監査法人でも勤められる時代になるんです。会計基準の世界的な統合及び標準化に対していろんな批判もありますが、私は素晴らしいことだと思っています。

●IFRSは日本になじむのか

日本独自の商慣行が上手く反映されないという懸念や批判がありますが、私はそれが、アドプションをしない理由にはならないと思っています。今、不動産の公正価値の評価手法でDCF法が使われていますが、つい10年ほど前の日本ではほとんど使われていませんでした。IAS第40号(投資不動産)を議論していたときに、日本では、公正価値は直近の取引価格であるから、DCFは当時の日本のビジネス慣行に合わないと言われました。その後、海外の投資家がDCFの考え方を日本に持ち込んで、今では当たり前の手法になっています。このように状況は変わりうるんです。だから、日本の慣行や文化の保護を考える前に、本当にそれが経済合理性の上に成り立っているのかを考えるべきだと思います。

株式の持ち合いも海外の投資家には、なかなか理解されないビジネス慣行です。製鉄業のリスクをとるために製鉄会社に投資したのに、その製鉄会社が膨大な投資を通じて自動車産業のリスクも持っている場合など、隠れている投資リスクがわかりにくくなることもあります。「自分は、鉄鋼業のリスクをとるために投資したのに、なぜなんだ。」となりかねません。

●IASBのボードメンバーとして心掛けていることは?

私はIASBのボードメンバーとして9年やっています。一番重要なのは、「私はどういう意見を持っているか」をしっかり論理的に説明できることだと思っています。相手が同意しなくても構いません。きちっと「私は、こういうロジックでこう考えるから、これには反対だ」と意見が言えれば、「あなたには賛成しないけど、論理は分かる」となりますし、尊敬されることもあります。概念フレームワークをよく理解し、それを基に考えたとき、現在IASBが合意した結論に賛成しないのであれば、はっきり「ノー」と言うべきです。例えば、日本の産業界が賛成している基準に反対するのは、かなり勇気が必要です。世間が怖いと思えば何も言わずに賛成することもできます。しかし、それではボードメンバーとして役割を果たしていない。常に自分の主張にしっかりした根拠を持っていれば、尊敬され、意思も通じると思う。付和雷同し、分からない時でも分からないと言わずニコって笑って、相手に「こいつ分かっていないな」と思われるのが一番良くないと思います。国際的な場は本当に厳しいですよ。テクニカルなことの基礎が分かっていなければいけないし、信用されるにはころころ意見が変わってはいけないですし。

●これからの目標は?

一番やりたいのは後進の育成です。私自身も苦しんで国際化の中でなんとか生きてきているので、次の人にはもっと楽になってほしいと思っています。私の経験から、どうすれば国際化の中で対応していけるか示していきたい。また、9年間IASBのボードメンバーとして活動してきましたが、苦しい時にずっと支援してきてくれた日本公認会計士協会に是非恩返しをしたいと思っています。

●準会員へのメッセージ

「英語、英語、・・・」です。

これからの世代を担う皆さんには、英語は必須だと思います。それと広い視野を持つことが重要です。そのためには、早い時期に海外へ行くことをお勧めします。日本だけの視野では狭いと思います。IFRSは、世界中で使われています。世界の動向を分かった上で、いろいろな判断をする必要が求められていると思います。会計基準が1つにならなければならないのは、投資活動や企業活動がグローバル化した結果、1つの尺度で企業の業績を測る物差しが必要になったからです。理念的に会計基準の統一が理想だからという綺麗ごとではありません。実際の経済活動が統一した物差しを要求しているからなのです。だから、皆さんには早くからグローバルな感覚を肌で感じてほしいと思います。

(文責: 藤井 雄介)

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