日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 会計業界 )

上林 三子雄 氏

本日はお忙しい中、準会員会幹事によるインタビューにお時間を割いていただき誠にありがとうございます。
早速ですが、平成21年11月16日付で「日本公認会計士協会が実施する実務補習の一般財団法人会計教育研修機構(以下機構とする)への引継について」が公表されました。これはどういったことを意味するのでしょうか。
まずは、機構の設立の経緯からお話します。
会社経営をするとき、売れば儲かるという時代ではなくなり、会計がかなり経営を左右する状況になりました。減損会計だとか昔はなかった基準が出てきましたね。つまり工場を建設し、店舗を出して、商品を大量に製造して、大量に販売しても減損会計がありますから、工場や店舗の減損処理にも経営者は意識する必要があります。経済社会において会計の重要性が高まっています。また、IFRSが入る影響度は大きいです。
ただ、IFRSが全部の日本の会計基準になるわけではなくて、従来通りの企業会計原則だってあるし、会社法会計、税務会計等もあるわけです。皆さんは全部がIFRSになると思っている方が多いですが、そういうわけではありません。日本には約200万社会社があって、大部分が小さい会社ですよね。そんな小さな会社にIFRSが適用されるわけではないのです。要するに、従来通りの会計基準も適用される会社もあり、さらにIFRSを適用される会社が出てくるというわけです。

つまり、IFRS教育をどうするかですが。日本公認会計士協会は教育研修に関して、実補補習所や継続的専門研修制度でノウハウを持っています。そのノウハウを生かして、公認会計士試験合格者、会計の実務に携わる方、会計・監査に広く関心がある方に一貫して会計を教えていくことを目的として出来たのがこの機構です。

CPA、会計士試験合格者だけではなく、幅広い方を対象とされているのですね。
実務補習所だけ見れば従来と変わらないですが、会員の為だけでなく、会計実務に関わる人、広く会計監査に関心のある方にも広く教育の機会を提供しています。
それでは、会員でない方と一緒に講義を受けることが将来的にはありますか。
それはあるでしょうね。補習所のカリキュラムを企業の方が受けるのではなく、そのような研修を企業の為に行うということはあるでしょうね。場合によっては研修に参加した補習生には単位を与えるとこともあると思います。このようなことをするためにもこの機構の設立は必要ですね。
公認会計士の合格者が増えていますが、全員が監査法人に入ることを予定しているのではなく、一般企業で会社の経営で働く人も予定しているわけですよね。一方で日本公認会計士協会への会費は、準会員を教育するために会員が拠出している資金です。だから、会員の会費を一般企業で働く準会員でない補習生の教育に使うのはどうかという考えもあります。そこで、一般企業で働く人に教育することで一般企業もメリットがあるわけですから、そのような企業の方にも会計士や会計に携わる方の教育に協力して頂きたいと思いこの機構を設立した意味もあります。
なるほど、一緒に会計士を育てていくということですね。監査をする側、される側共に成長できて良いですね。
ところで、講師の方はどうされるのですか。
従来通り補習生の指導に当たる方を公認会計士協会へ監査法人からまず出していただきます。そして、公認会計士協会から機構へその方々を派遣して頂くという流れですね。
ありがとうございます。ほぼ従来通りということですね。続きまして、補習所のカリキュラムや制度が変わった経緯について簡単に教えて頂きたいと思います。
3年間 担当常務理事として補習所を運営してきますと、カリキュラムや制度を見ていて変えていきたいなと思ったのがきっかけです。補習生の勤務先が、監査法人だけでなく一般企業の方も増えていて状況が変わっています。そんな中で従来通り監査法人重視のカリキュラムをやっていていいのかと思いました。まずは、実務補習所のあり方を短期的と長期的に分けて昨年5月から全国の補習委員の皆さんと検討を重ね文章にまとめています。当面の実務補習所のあり方、将来の実務補習所のあり方ということで2種類の報告書を今作成しています。
特に重視した点はどこでしょうか。
大きく2つあります。一般事業会社へ勤務する補習生を考慮しようということと、すぐに使えて役に立つ授業の内容を教えようということです。カリキュラムの中には監査法人の研修と重複するような内容や、公認会計士試験ですでに勉強している授業があるのと思いまして、そこの見直しもしました。既に知っている授業をするばかりでは皆さんのやる気も起こらないだろうということで。新しいカリキュラムを考えました。ただし、従来のカリキュラムを廃止したわけではなく、より興味の湧くカリキュラムの追加を考えました。もちろん補習生の皆さんは、全ての授業に出ていただきたいですが、なかなか現実的には大変だと思います。
補習所がより充実したものになってきているのですね。具体的にはどういった内容の授業を増やされたのですか。
まずは、独立開業の授業ですね。補習生の皆さんは、事務所を持ちたいとか、社会に貢献したいとか色々思っている方がいらっしゃると思っています。そういう方に会計士として独り立ちできるように補習所の授業で何か伝えられたらと思います。独立開業というと、実際に成功した人は教科書通りのことだけをやっているのではないのです。そこのところを何とか授業で出来ないかなと考えています。
次に、実務的な法律の知識です。不動産に関しては、相続税評価額・路線価・公示価格等様々な評価額があったり、登記簿謄本の見方であったりと法律の知識って結構必要です。皆さん家を買えばそういう話はわかるでしょうけど、若い皆さんに今すぐには無理でしょう。専門家としてお客さんにアドバイスできないと困るので、そのような法律の知識を身につけてほしいと思っています。また、民法の勉強ですが、例えばセールスアンドリースバックだとかリース基準は分かるのですが、具体的な契約書の見方は教わらないですしょう。そういうところを補習所で理解出来ればと思いまして。
現場で初めてそういう法律関係の書類を目にして、見方に戸惑うのでそういう授業はありがたいです。
次に、原価計算です。最近の会計基準の大きな変化に伴い、会計士の仕事としては原価計算を意外に今やらないでしょ。原価計算は奥が深いものです。会計基準のように細かく規定されていないし、製造業と言ってもいろいろな製品がありますから、原価計算は、実は一律に規定できないのです。何かいい本はないかと、街の本屋で探しているといい本を見つけました。書いた会計士に直接連絡して、管理会計の実務ということで1コマ担当していただいています。実務と管理会計の基準に接点の理解が必要です。独立して会社の助言に原価計算、原価管理はよく使います。皆さん意外に知らないですね。そこを補習生に教えていただこうと思いまして。

あともう一つは英語です。

英語は重要性が増していますからね。
補習生は英語が試験科目にないので、英語の勉強はしないでしょう。今回、日本語の話せるアメリカ人の方に授業をお願いしました。英語で説明してもらってから、日本語で説明してもらうようにお願いしました。そうすると、補習生は自分の英語力ってわかるじゃないですか。そこで「やばいなー」と思うことは、本人にとっていいことです。それで勉強を始めてくればいいです。補習生は、英語の重要性を分かる人が多いと思います。要は、英語を勉強する動機づけをさせたいのです。また、授業を聞いて欧米人がどこで、ジョークを言うのかとかそういうことが分かれば、外国人とコミュニケーションがより図れると思います。
会計英語というわけではないのですね。
また、会計英語の基礎講座も新規設定しています。講師は海外駐在経験者にお願いして、彼が必要と考える英語の会計単語、監査熟語の講座です。これも、補習生の勉強のきっかけになってもらえばなと思って。何回も言いますが、英語に関心を持って欲しいのです。
近畿のカリキュラムを見ているとそういった授業は東京だけのように感じるのですが、近畿の実務補修所はどうなるのでしょうか。
まず東京でやってみて、それから近畿でもと考えています。そういった新しい授業というのはE-learningにしようと思っていまして。ですので、近畿でも授業を受けられると思いますよ。学年別にE-learningは分かれていますが、J2の人がJ3の授業を見てもいいと思いますね。為になる授業ですので。
そうなってきますと、将来大学みたいになるかもしれませんね。自分の好きな科目を選択して、単位を揃える。
そうなっていくことを考えています。カリキュラム講座を多くして選択、必修科目を設定したいと考えています。
先ほど、一般事業会社に勤務する補習生を考慮するとおっしゃっていましたが、その点についてお話しいただけますか。
そうですね。東京で実施しているのですが、一般事業会社お勤めの方のために、補習所の開始時間が遅めのクラスを設けました。今一般的なクラスは6時スタートなのですが、7時スタートのクラスを1つ作りました。ニーズがあるのか不安ではあったのですが、蓋を開けてみると150人の応募がありましたね。
ニーズが結構あったのですね。近畿でもそのように着手すると聞いています。
そうですね。4月から近畿もそうすると聞いています。最初はやめようという意見もあったのですが、とりあえずはやってみようということでやってみましたね。本年度の補習所の特徴は、カリキュラムを変えたのと、補習所の時間帯を増やしたのが今回のポイントですね。
またカリキュラムの改訂に関しては、準会員会の方にも協力して頂きましたしね。
はい。協力させていただきました。カリキュラムの案に関しましては準会員会の方へ要望を尋ねられたので、月1で行われる幹事ミーティングで何か補修所でやりたいことはないか話し合い、提出させていただきました。
皆さんのやりたい科目をやりたいですしね。実際に受けられる方の声は大切ですね。
今後のあり方ということで、長期的な話についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
そうですね。IFACの加盟国がIES(国際教育基準)とういものを出しているのですけれども、そこで職業倫理(心)・専門的知識(頭)・専門的技能(体)の三位一体になった教育をしてくださいと記載されています。この中で一番大事なのは職業倫理ですね。倫理というのは、抽象的な心の持ち様で具体性に欠けます。一方で、法律は明確ですよね。法律は、違反すれば罰する規定があるからです。人間というものは弱い動物で、罰する規定がないと、ついつい違反を犯してしまうのです。反対に、倫理というのは罰する規定がないので、抽象的な表現が多いです。
最近の日本人に言えることは、倫理観が欠如していることです。生活が豊かになってきているからでしょう。一般的には、日本は豊かだから倫理観を求められる。過去にカネボウ問題など、職業倫理がない諸先輩方が社会から批判を浴びたりしました。そこで先ほども言いましたが、補習所カリキュラムに、将来的に必修科目と選択科目を設けようと思っています。必修科目に職業倫理を入れようと思っています。会計監査も税務もどの会計に関わろうと倫理が必要でしょう。だから、必修科目です。さらに、職業倫理の能力を高めるためには、同じ倫理の内容であっても何回も聞いて心に常に持ってもらいたいです。知識として倫理を考えてはいけないのです。一回聞いたよ ということでもいいです。それは覚えているというより、絶えず実行が大切だからです。倫理って過去の人間が築いた英知ですからね。
そうですね。それでは、選択科目はどうなるのでしょうか。
選択科目では自分が将来どういう道を選ぶかにより必要な授業も変わりますよね。だから、必要な科目だけを受けられる様にしたいです。今考えているのは、E-learningを増やそうかなと思っています。プレゼン能力のように、皆と一緒にやることで成長する専門的技術、スキルに関しては補習所に来てやらないといけないですし、専門的知識のような頭を鍛えるものは補習所の座学で聞きたい人や、自宅など1人で聞きたい人など、そこは人それぞれだから、選択権を認めようかなと思っています。
それぞれに合った勉強の仕方で学べるので良いですね。
あと、補習生の皆さんの出席率が悪いですね。昨年は修了考査を受けられない人が28名いました。やはり単位が足りないんですよ。E-learningも増やしますのでそれに参加して、修了考査を受けてほしいです。
将来的にはCPAになられた会計士の方が、補習所の授業を受けられるようになるのですか。
実は、補習所の教材でもう一度CPAになってから勉強したいという人が多いんです。昨年、東京でリフレッシュ研修ということで、補修所のテキストを使って授業をしました。昔と比べて会計基準も変わっているので、改めて勉強したいという声が多いですね。
話は変わりますが、準会員会主催の勉強会を行ったりと準会員会をはじめとする若手が活動を活発にしていることをどう思われますか。
それはとてもいいと思いますね。昔の準会員会はパーティーのイメージしかなかったので。もちろん、交流を深めることもいいのですが、社会の公認会計士に対するイメージとして、会計士はこうあるべきというのがありますよね。積極的に皆さんに動いて頂いて、切磋琢磨して頂きたいですね。
ありがとうございます。補習所任せでは受動的になってしまいますので、積極的に今後も活動させていただきたいと思います。最後に、若手の会計士へのメッセージをお願いします。
やっぱり、社会から公認会計士は難しい試験を受かった人という認識があります。専門的知識を最低限持った上で、職業倫理や専門的技能を身につけてほしいです。会計士の能力、知識をある程度十分に持っていてほしい。そこが少し欠如している人もいると最近思います。CPAになるまでの3年間満遍なく勉強しないといけないのですが、ITに強い人が税務に非常に弱いなど、最近修了試験でその傾向が露骨に出てきています。私は、補習所では満遍なく基礎的な勉強する3年間だと思っています。まず専門的知識を備えて、そのあとに倫理観や技能スキルを身につけてほしいです。

本日は貴重なお話を頂き本当にありがとうございました。私共準会員会一人一人が、協会や機構により提供される実務補習の新制度や新カリキュラムを積極的に活用して、より深い見識を蓄えることが出来るように今後も研鑽してまいります。また、準会員会幹事といたしましても、より良い研修会などを通じて準会員の知識等の向上に資する活動を今後も行ってまいります。

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