日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 会計業界 )

ミャンマー訪問インタビュー 中山さやか様

中山さやか様のプロフィール

2006年上智大学卒業、みずほ証券にて7年間勤務。その間に米国公認会計士を取得し、退職後、2014年1月よりヤンゴンに駐在。2015年1月MVC会計事務所を設立、同代表に就任。アウンサンマーケットでロンジー仕立屋も展開。

会社情報
  • MVC会計事務所(https://www.mvc-ac.com/
    代表:中山さやか様
  • CVC会計グループ天野正康公認会計士・税理士・行政書士事務所(http://cvc-ac.com/
    代表:天野正康様(中山様と一緒にMVC会計事務所の設立に携わる)

1.ミャンマー語と英語がご堪能と伺っております。語学上達のコツ、仕事で使えるようにするためのコツをご教示下さい。

ミャンマー語については最初は勉強をするつもりがなく、英語だけで仕事をやっていこうと思っていましたが、最初の一年で自分自身ミャンマー人ビジネスマンとの関係で苦境に立たされる場面が多く、相手になめられないためにもミャンマー語をわかる必要があると痛感しました。そういった意味ではこの「痛感」つまり「必要性」がコツです。人によっては恋人がミャンマー人だから言葉をわかる必要があるとか、スタッフとのコミュニケーションでどうしても現地語が必要とか、それぞれだと思います。

英語については中学高校の時代は得意だと思っていまして、交換留学生の受け入れの担当をしたり積極的に外国人とかかわるようしたりしていました。ですが帰国子女の多い上智大学に入学し、自分レベルでは太刀打ちできないと出鼻をくじかれた格好になりプライドの高かったうら若きわたしは英語の勉強をすぐにやめてしまいました。周りが上手すぎて恥ずかしかったのです。社会人になったあとも特に必要性を感じてはいなかったのですが、CPA受験をきっかけにまた英語力が伸びました。

2.ミャンマーにて数年間ビジネス目的で暮らされてみて、日々の生活や商習慣の相違等ございましたらご教示下さい。

ものやサービスの相場や値段があってないようなものと思います。相手をみて値段をふっかけてくることも多いです。この習慣に学び自分でも必要な場面ではそのようにしています。また、日本では「お客様は神様」という風潮ですが、ミャンマーではサプライヤー側の地位が高く、たとえば仕入に行く場合に卸売の業者から「お前に売ってやっているのだ」という態度を取られることが多いです。最初はいちいち喧嘩になり揉めて決裂していましたが、今では最重要なことは良いものを良い値段で仕入れることであり業者との関係はどうでもよいという境地に至ることができました。

3.ミャンマーに日本企業が進出する場合、どのような問題が生じやすいでしょうか。一般的な面、会計的な面、どちらもご教示下さいますと幸いです。

ごく当たり前のことなのですが、達成可能な利益計画がなく進出している会社がミャンマーでは過去5年間異常に多かったように思います。2017年ジェトロの資料で、ミャンマー進出日系企業のうち黒字を出せている会社が33.8%という非常に少ない統計を見ました[1]。長期計画で進出している会社も多いので、一概には言えませんが「なんか儲かりそう」「ひとやま当てたい」というオーナーのトップダウンの決定で進出し利益が出せていない会社が多いように思います。「達成可能な」と言いましたが、費用を保守的に多めに予測して計画し、それを上回り納税もできる売上高はいくらなのか、四半期では?月次では?と具体的な目標・計画をもって運営している会社が少ないように思います。仕方ない面もありまして、一つには非常に不動産価格が高騰していたということがあります。オフィス物件を借りるだけでも非常にコストがかかります。駐在者を常駐させれば住居や移動の費用もかかります。

また一つには人材が流動的だという問題があります。せっかく教育をした人材が他社へ引き抜かれてしまい、採用を一からやり直すということなどもあります。

4.米国会計士の資格を持ちミャンマーに進出されたことは、資格がなかった場合に較べて、大きなアドバーテージとなりましたか。日本の米国公認会計士・日本公認会計士資格保有者に対し、ミャンマー進出をお勧めできる点・ミャンマーのアピールポイントがございましたらご教示下さい。

一般的に日本のクライアントにおいて有資格者ではない者に、会社の大切な数字を見せる経営者はあまりいないと思います。非常に信頼ができる・スキルがあることをすでに知っている場合には別だと思いますが、弊社のように新興市場で新規のお客様へ会計業務を提案し、お仕事を受注する場合には資格の信頼性は大きいと思います。ミャンマーではわたしのほかにも公認会計士・USCPA・税理士の日本人の先生方が多く活躍していますが、まだまだ需要に対して専門家が足りないと感じます。

今でしたらまだミャンマーのスペシャリストになれると思いますし、会計記帳やレポートは英語ですので語学力を生かすこともできます。スタッフにも会計に習熟した人材が多いとは言えない環境で人材育成にも関わっていける楽しさ、むずかしさも味わえると思います。

5.ロンジー仕立屋さんは、最近も日本のお客様が多いですか。多い場合、日本人観光客に向けて工夫されている点はございますか。また将来に向けての展望をご教示下さい。

はい、圧倒的に日本のお客様が多いです。店に日本語通訳が常駐しているのが「ウリ」なのでそれだけでもご来店はいただけます。ミャンマーでは物の値段はあってないようなもの、交渉次第となっていて、マーケットで値段を表示している店舗が少ないのですが、当店では値段をすべて表示しています。そのくせ、ミャンマーでは値段がすべてでミャンマー人同士の買い物での会話は値段交渉がほとんどなのですが、日本のお客様の場合には、なぜロンジーを着るのかとか物の背景やストーリーをお伝えし感動してもらえるようなサービス・販売を心がけています。ミャンマーでの滞在を思い出深いものにするためにとか、ミャンマーの人とのコミュニケーションを円滑にするためにロンジーを着てみてはどうですか?とおすすめしたり、パゴダでロンジーを着ているとミャンマー人になったような気持ちで体験がより濃いものになりますよ、などと説明をしたりしています。また民族の布もそれぞれに個性的でとても楽しいですしわたしたち日本人がどこか懐かしく感じるような和柄に近いものがあったりと・・そういうお話をしたほうがお客様は嬉しいですよね。ただガサッと布を売っているお店とは決定的に差別化をしています。

6.同じ女性会計士として、私も将来海外で働きたいという気持ちが強いです。女性が海外で働いていく中で有利な点不利な点がございましたらご教示下さい。

そのように漠然とでも思ってらっしゃるということは、いつかは絶対に海外に出られると思いますので、せっかくですので今日からでもご準備をはじめてみてください!!女性が不利な点は昨今ではあまりないと思いますが、治安が悪い場所の場合には犯罪に遭遇するのが男性よりさらに怖いです。ミャンマーは治安は基本的にはとてもよい国ですので安心して生活も仕事もできています。わたしは結婚していますが子供がいないのですが、もし将来こどもができたら日本よりアジアで育てたい気持ちが強いです。お手伝いさん、シッターさんを上手に利用されている女性の先輩方もたくさんいらっしゃって憧れています。日本では保育園に預けるのも大変と聞きますし、子供が歓迎されていない感じがして女性として胸が締め付けられるような思いで社会を見ています。

7.海外で働いてみたいと考える会計資格保有者に対してアドバイスがございましたら、ぜひご教示下さい。

会計の資格者のみなさんは、じっくりモチベーションをもって一つのことを勉強していける能力がある人です。その能力をさらに生かすためには同質性の高い環境だけでなく(有資格者同士のつながりだけでなく)海外とか違う世代の人とかまったく異なるバックグラウンドの中にも自分の居場所があると、視野がひろがっておもしろい人生が送れると思います。学校や会社で成績優秀&エースとして歩んでこられたと思いますが、それが通じない世界もあると感じている方がおもしろいのではないかな?と思います。SNSでも海外生活の情報を発信している人もたくさんいますし、気軽に海外に行けるような時代なので、軽やかな気持ちで挑戦してみてください。失敗が許されない風潮が日本にはありますけど、(その風潮も変えていかなければと思いますが)実際は能力の高い人はそんなことはなく、何度でもやり直せると思います。

ASEAN全体における日系の黒字企業の割合は、64.6%である。(日本貿易振興機構(JETRO)(2017年12月21日)「2017年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」8頁

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