日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( JIJAジャーナル )

海外で働くということ。

シドニー編①(KPMGシドニー事務所 濵田睦將氏)

【ご経歴】

鉄鋼メーカー勤務を経て2004年12月あずさ監査法人に入所。大手総合商社や大手医療器メーカーの監査を担当後、2009年12月から別の大手総合商社へ出向した。出向から帰任後、再び大手総合商社の監査に従事し、2014年3月から海外派遣プログラムにてKPMGシドニー事務所に出向している。

今回、準会員会では海外で働く公認会計士にインタビューをし、キャリアとしての海外経験について記事にさせていただきました。将来のキャリアを海外で積みたいと考える準会員や受験生に向けて、メッセージもいただいておりますので、お楽しみください!!

質問1:公認会計士を知ることになったきっかけから、現在海外で働かれている現在までの経緯について教えてください

公認会計士という職業を初めて知ったのは、高校3年の時で、何気なく教室の本棚に置いてあった職業図鑑の本を見た時でした。本格的に自分自身の職業として意識したのは、大学卒業後の進路を模索していた大学3年生の冬のことでした。私はその時までずっと野球をしていたのですが、将来の職業を決める際、「何か手に職をつけたい」という自分自身の希望もあって、大学野球終了後に会計士試験にチャレンジしようと決意しました。幸運にも社会人野球チームからお誘いを受けたため、実際に勉強を始めたのは社会人野球を引退した後のことでした。当初働きながら勉強していましたが、やはり仕事と勉強の両立は厳しく、加えて「退路を断たないと合格できない」と思い始めたことから、意を決して会社を辞め、勉強に専念しました。そのような経緯があったため、合格して監査法人に入所したのはちょうど30歳の時です。

入所当初にアサインされたクライアントは総合商社でした。ご存知の通り、総合商社のビジネスはグローバルかつ多岐にわたって展開されていましたから、この中でやっていくには英語はもちろんのこと、海外のことを知らないと厳しいなということをぼんやりと考えるようになったことを覚えています。私は英語が得意な人間ではないのですが、入所当初より尊敬する監査チームの上司の方々から「海外経験のすすめ」をいただいたこともあって、海外赴任が徐々に「遠い将来のぼんやりとした目標」になってきました。それが「近い将来の明確な目標」になる契機となったのが、別の総合商社へ出向する機会をいただいた時でした。英語は当然のこととして、それ以外の中国語やポルトガル語等を駆使して仕事を進める方々の姿を目の当たりにして、素直に「すごいな」と感嘆していました。また、出向期間中に海外出張をする機会をいただいたことがあったのですが、その際、同行させていただいたある方から「英語は目標ではなく、仕事のための「道具」ですよ」と言われた時、英語が目標となっていた自分に気づかされると同時に、心から「海外で仕事をしてみたい」と思うようになりました。その思いは監査法人に戻ってマネジャーに昇格し、自分自身で海外とのコミュニケーションを行う機会が増えたことで一層強くなりました。そのような時にシドニーでの海外赴任の機会をいただき、今日に至っています。

質問2:現在シドニーではどのようなお仕事をされていますか。

日系企業および現地企業への監査がメインの業務です。比率としては日系企業が7、現地企業が3という感じです。基本的に監査の手法自体は日本のものとほぼ一緒でしたが、細かい部分ではいろいろな部分で監査実務が異なっていました。監査以外の業務としては、日系企業向けに行うセミナー資料を和訳して作成したり、逆に現地監査チームのために日本語の契約書を英訳したりという突発的な仕事も経験しました。余談になりますが、日本語で書かれた契約書の英訳は微妙な言い回しが多くて結構難しかったですね。他にも日本でも経験することがなかった現地日系企業に対する本社・内部監査部の作業支援業務も経験する機会もありました。

質問3:海外で働いてよかったことや大変だったことについて教えてください。

よかったことは、日本にいたころと比べて自分の時間が増えたことです。よくワーク・ライフ・バランスといいますが、間違いなくシドニーは「ライフ」を重視していますし、徹底していると思います。仕事が終わっていないのに、下のシニア・スタッフが帰ることは日常茶飯事です。デッドラインに対する意識が全然違うのでしょうね。土日に仕事する人はほとんどいないですし、もっと言えば金曜日の午後から週末モードになる人も多いなあと感じます。金曜日午後のパブにはたくさんの人で溢れていますからね。そのような雰囲気ですので、私自身も繁忙期を除いて比較的ゆっくりと過ごすことができました。1か月近くもあるクリスマスホリデーの長さも魅力ですね。

大変だったことを挙げればきりがありませんが、仕事という意味では下のシニア・スタッフを思った通りに動かすことは苦労しました。現地のシニア・スタッフは、前期調書と同じ作業をこなすという点では非常に優秀ですが、前期と同じ監査手続であっても推定差異が基準値を超える場合や、そもそも前期と全く異なる監査手続を実施する場合には、途端に脆さを露呈するケースが多いと感じました。そのような状況下で意識したのは、事前に手続の目的を丁寧に説明したことです。もっとも、それでも期待したレベルの監査調書ができてこない場合も多いですが。

私生活という面で言えば、オージーは約束した日時に対してルーズな人が多いということでしょうか。例えば、電気、ガス、インターネット等の契約を行う際、電話等で約束した日時に担当者が現れるということは、私が知っているシドニー在住の日本人の話も含め、ほぼ皆無です。また、事前にインターネットでレンタカーを予約したにも関わらず、現地に到着してみると予約した車ではなく、倍ぐらいの料金の車をしつこく勧められたりしたこともありました。そのようなトラブルを通じて経験則的に「自分が腹を立てると事態は好転どころか悪化する」ということを学んだことは、今後海外とのコミュニケーションが必要な仕事を行う際、役立つのではないかと期待しています。また、渡航前のイメージとして外国人は基本的にドライであるという印象を持っていましたが、意外にウェットな部分も多く、良好な人間関係は仕事を進める上でも非常に重要だと感じました。

質問4:海外から見た日本についてどう思われますか。

日本にいた頃から「日本は素晴らしい」と思っていましたが、実際に海外に来てみてその思いがさらに強くなったと思います。非常に真面目で優秀ですし、時間も含めて何事に対してもきっちりしています。ただ、海外から見たら日本は少し特殊な国なのかもしれませんね。オージーとの比較という意味では、全体的に細か過ぎる印象がありますし、すべてにおいてサービス過剰な感じがします。もっとも、それが日本の良いところでもありますが。個人的には日本人とオージーを足して2で割るとちょうど良い感じになるのではないかと感じています。また現地パートナー、マネジャーを見て感じたことですが、日本人はまだまだ自己主張を含めたプレゼンテーション能力が低いなとも思いました。自信たっぷりに堂々とクライアントの前で話し、納得させている姿を見ると、そのような能力を磨くことも必要だなと感じました。

最後に若手へのメッセージをお願いします。

幸い私は入所当初から海外を意識できるクライアントに関与することができましたが、そうでなくても、少しでいいので海外のことを意識しながら仕事を行い、チャンスがあれば積極的に海外赴任にチャレンジすることをお勧めします。世界観が広がりますし、仕事の幅も飛躍的に広がるのは職業的専門家としては非常に魅力的だと思います。具体的にいうと、海外赴任経験があればグローバルクライアントに関与できるチャンスも広がるでしょうし、海外ファームの人たちとのコネクションもできますので、非常に充実した業務を経験できるのではないかと思います。

また会計士は専門知識を売る商売ですので、向上心を持って貪欲に専門知識を増やすことが個人の能力向上にはとても大切だと思います。スキルアップすれば新しいことをできるチャンスは確実に広がります。監査は単調でつまらないという声をよく聞きますが、必ずしも当てはまらないと考えています。通常見ることのできない様々な会社の全体的な中身を見ることができるというのは、他の職業にはない会計士に与えられた特権です。単純な作業も確かにありますが、それだけに目を奪われることなく、自分のキャリアを見据えながら高い意識で業務に取り組んでいただければ、幾らでもその後のチャンスは広がっていますので、是非頑張っていただきたいと思います。

ありがとうございました。

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