【海外視察レポート】第3章 サステナビリティ
要約
香港の迅速な制度整備
•ISSB基準公表(2023年6月)から強制適用(2026年1月)まで約2年半で制度整備を完了
•国際基準を最小限の調整で直接採用し、グローバルスタンダードと 完全整合を実現
香港の迅速さを支えた構造的要因
•GDP 22%を占める金融特化型経済において「信頼」と「透明性」が競争力 源泉
•中国企業 国際資本市場へ ゲートウェイ機能(取引所時価総額 約8割が中国本土企業)
•主要ステークホルダー 地理的集中による迅速な合意形成
•IFRS直接採用 長年 経験蓄積
日本と 本質的な違い
•法的枠組み:香港 取引所規則で機動的に推進、日本 金融商品取引法に基づき法的安定性
を重視
•産業構 :香港 金融・サービス中心、日本 製 業中心で複雑なサプライチェーン対応が必
要
•保証市場:香港 会計士・非会計士混在で品質 らつきが課題化、日本 品質管理を優先
して議論中
日本が香港から学ぶべき3つ 教訓
1.多様な専門家 活用と登録制度 事前整備(市場開放前に規制枠組みを構築)
2.産業構 に適合したデータ連携フォーマット 標準化(ポータルで なく共通言語 整備)
3.官民連携による戦略的な人材育成プログラム 整備(政府資金による研修補助制度等)
じめに
本レポート 、2025年10月初旬に実施した香港海外視察におけるサステナビリティに関する調
査結果をまとめたも である。香港会計士協会、Deloitte、PwC、EY、JETRO、NAC、香港大学
などを訪問し最先端 知見を収集した。香港 国際金融センターとして 特性を活かし、国際基
準 公表(2023年6月)から強制適用開始(2026年1月)まで約2年半という 度で制度整備を完了
した。本レポートで 、香港が世界トップレベル サステナビリティ推進地域となった要因を分析
するとともに、そ 制度設計 背景にある構 的特性を明らかにし、日本へ 実質的な示唆を
提示する。
香港におけるサステナビリティ開示
香港証券取引所(HKEX)、世界に先駆けてESG開示 制度化を進めてきた。2016年1月以降
に開始する事業年度から、上場企業全社に対してESGレポート 作成を「comply or explain(遵
守また 説明)」方式で求めるようになった[1][2]。comply or explainと サステナビリティ情報に
ついて開示するか、開示しない場合 そ 理由を説明するという柔軟な仕組みで、実質的な開
示を促す仕掛けである。こ 早期 取り組みが、香港 サステナビリティ開示における先進性
基盤となった。2023年6月26日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がIFRS S1(サステナビ
リティ関連財務情報 開示に関する全般的要求事項)およびS2(気候関連開示)を公表し[3][4]、
世界的に統一された開示基準 確立という歴史的な転換点となった。2024年12月に 香港会
計士協会がHKFRS S1/S2を発行し[5]、香港特別行政区政府がサステナビリティ開示ロードマッ
プを発表した[6]。多く 国が自国 状況に合わせて修正する「エンドースメント」プロセスを経る
中、香港 国際基準を最小限 調整で直接採用するアプローチを選択することで導入まで 時
間を大幅に短縮し、グローバルスタンダードと 完全な整合性を確保した。2025年8月にHKFRS
S1およびS2が正式に発効され[7]、2025年1月から 既に香港 主要な上場企業すべてに対し
てスコープ1(事業者自らによる温室効果ガス 直接排出)・2(他社から供給された電気、熱、蒸
気 使用に伴う間接排出)排出量 開示が義務化されている[8]。さらに2026年1月からハンセン
総合大型株指数構成銘柄(香港市場 時価総額上位銘柄で構成される指数)である大型株を対
象に新気候関連要件に基づく開示を義務化する予定である[8]。国際基準 公表(2023年6月)か
ら強制適用開始(2026年1月)まで約2年半という 度 、多く 先進国と比較しても際立ってい
る。
香港がサステナビリティ開示を迅 に推進している背景
香港 経済 金融サービス業を中心に構成されており、2023年時点で金融・保険業がGDP
22%を占める[9]。約1,110平方キロメートルという限られた土地面積[10] 中で、金融を中心とし
た高付加価値産業に特化せざるを得ない地理的制約がある。これ シンガポール(約720平方キ
ロメートル[11])と類似した発展パターンである。製 業や農業など物理的資産に基づく産業で
なく、知識集約型 産業を主軸とする香港にとって、「信頼」と「透明性」という無形資産こそが競
争力 源泉である。サステナビリティ開示 、こ 信頼と透明性を可視化する手段として位置づ
けられている。また香港 IPO(新規株式公開) 規模において世界トップクラス 実績を誇り、
2019年に 世界第1位を獲得した[12]。IPO市場で成功するために 、投資家 期待と要求に
敏感に対応する必要がある。近年、機関投資家を じめとする世界 投資家コミュニティにおい
て、ESG要素が投資 重要な判断基準となっている。香港 こ トレンドをいち早く察知し、積極
的にサステナビリティ開示 枠組みを整備してきた。さらに香港 中国企業が国際資本市場に
アクセスする主要なゲートウェイとしても機能している。2025年時点で香港取引所において中国
本土企業が時価総額全体に占める割合 約8割に達する[13]。中国政府も2020年9月、習近平
国家主席が国連総会において「2060年カーボンニュートラル」目標を掲げるなど[14]、サステナビ
リティを国家戦略として重視する姿勢を強めている。香港が高水準 サステナビリティ開示基準
を確立すること 、中国企業 国際的な資金調達を円滑化し、同時に香港 金融センターとして
価値を高めることにつながる。こ 戦略的な位置づけが、政府レベルで コミットメントを強固
なも にしている。そして短期間で国際基準 採用から強制適用まで ロードマップを示し、実
際に施行できた背景に 、香港特別行政区政府、香港取引所、香港会計士協会、監査法人など
主要ステークホルダーが緊密に連携していることがある。本視察における関係者ヒアリングか
ら、小規模な地域であることが意思決定 迅 化と一貫性 確保を容易にしていることがうかが
えた。主要な会計事務所、規制当局、業界団体 オフィス 香港 中心部に集中しており、対面
で 協議が日常的に行われている。また、香港 歴史的に国際的な商業ハブとして発展してき
た経緯から、グローバルスタンダードを受け入れることへ 抵抗が相対的に少ない。香港 会計
基準 国際財務報告基準(IFRS)を直接採用しており、こ 長年 経験により、国際基準を迅
に採用するプロセスとノウハウが蓄積されている。そして制度 整備されても、それを運用できる
専門人材がいなけれ 実効性 担保されない。本視察期間中に訪問した香港会計士協会およ
びBig4において定期的にワークショップやセミナーが開催され、コミュニティ全体 能力向上を図
る取り組みが確認できた。限られた地理的範囲内で効率的に専門家ネットワークを構築できる香
港 利点を最大限に活かした取り組みである。
香港におけるサステナビリティ保証について
サステナビリティ開示 信頼性を担保するため、第三者保証 導入も検討が進んでいる。香港
「国際金融センター」として 地位を背景に、国際基準と 完全な整合を志向している。香港会
計士協会(HKICPA)、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が公表したISSA 5000と整合した
ローカル保証基準 整備を進めており、香港上場企業 サステナビリティ情報が国際的に受け
入れやすい高い保証枠組み 下で検証される環境を整えることを目指している[15]。香港証券
取引所および香港特別行政区政府が公表したロードマップで 、2027年に協議 上で、大規模
な上場企業を対象とした保証制度 導入を検討することが示されている[6]。香港 保証市場に
おける特徴的な点 、公認会計士(CPA)と非CPA 共存モデルである。会計財務報告評議会
(AFRC) 調査によれ 、ハンセン総合大型株指数構成銘柄 うちサステナビリティ保証を取得
している企業 過半数が、監査法人で なく、コンサルティング会社や認証機関など 非CPAを
起用している[15]。エンジニアリング バックグラウンドを持つ専門家や環境科学 専門機関が
重要な役割を果たしている。しかし、こ 開放的な市場 課題も抱えている。AFRC 調査で 、
香港市場全体において適用基準や保証レベル 不統一が指摘されており、投資家に混乱を与
える可能性が懸念されている[15]。こ 事態を受け、香港政府とAFRC 現在、サステナビリティ
保証提供者に対する新たな登録・規制枠組み 導入を検討している。国際基準であるISSA
5000も、公認会計士に限らず、必要な能力と倫理要件を満たす保証業務実施者 関与を想定し
ており、香港 こ 国際的な潮流に沿いつつ、品質管理 強化を図る制度設計を進めている。
日本と 比較と香港 経験から 実質的示唆
香港と日本 サステナビリティ開示へ 取り組み 、法的枠組み、産業構 差異を反映して
対照的である。以下で 、主要な相違点を整理し、日本が香港 経験から学ぶべき実質的な教
訓を提示する。
1. ロードマップと法的枠組み 違い
香港 香港取引所(HKEX) 上場規則を通じてサステナビリティ開示を推進している[6]。上場規
則 取引所が定めるルールであるため、議会で 法律改正を経ることなく、比較的迅 に変更
できる。企業が規則に違反した場合、取引所から 警告や上場廃止といった措置が取られる。こ
アプローチ 利点 意思決定 さにあるが、
一方で規制当局 判断により将来ルールが変
更されるリスクも伴う。
一方、日本で サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国際基準をベース
としつつも、日本 実情に配慮した独自 基準を開発している。2025年3月に確定基準が公表さ
れ、2027年3月期から適用が開始される[16][17]。日本 アプローチ 特徴 、金融商品取引法
という法律に基づく制度として、有価証券報告書 中にサステナビリティ情報を組み込もうとして
いる点にある。有価証券報告書 法律で定められた正式な開示書類であるため、虚偽 記載が
あった場合、経営者 刑事罰や民事責任を問われる可能性がある。これ 取引所による懲戒処
分よりも るかに重い法的責任である。こ ため、日本 制度整備に 時間を要するが、
一度
確立されれ 企業にとっても投資家にとっても法的な安定性が高い制度となる。適用対象 時
価総額3兆円以上 企業から開始し、2028年3月期に 1兆円以上 企業へと段階的に拡大さ
れる。すべて 開示項目を対象企業に一括して適用する方式であり、大企業における優れた実
務が中堅企業へと波及していくことを期待している。こ 違い 、香港が「取引所 ルール」とし
て機動的に進めている に対し、日本 最初から「法律に基づく開示」として組み込む作業を
行っていることを意味する。日本 アプローチ 時間を要するが、長期的に 投資家保護と法的
安定性 面で優位性を持つといえる。
2. 開示 質と実務的課題
日本で 、有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」 記載が2023
年3月期から義務化されており、プライム市場上場企業を中心に気候関連財務情報開示タスク
フォース(TCFD)に基づく開示が進んでいる。日本 TCFDへ 参加・開示対応が国際的に見て
も積極的である。[18]。開示へ 取り組み自体 極めて積極的である。しかし、開示 質に 課
題が残る。KPMG Japan 調査によれ 、統合報告書において重要リスク・機会 財務影響を
定量的に開示している企業 約25%にとどまっている[19]。企業 ガバナンス体制や戦略 概
要といった定性的な開示 進んでいるも 、投資家が求める財務的影響 定量化という点で
道半 である。香港においても同様 課題 存在するが、国際基準を直接採用することで、
グローバル投資家が期待する開示 形式と 整合性 確保されている。日本 課題 、基準そ
も というよりも、企業側 実務能力と財務的影響を数値化する手法 確立にあるといえる。
3. 保証制度における課題と対応 違い
サステナビリティ情報 信頼性を担保する第三者保証についても、香港と日本 対照的なアプ
ローチをとっている。香港で 、公認会計士(CPA)だけでなく、コンサルティング会社や認証機関
など 会計士以外 専門家も保証業務を提供している。会計財務報告評議会(AFRC) 調査に
よれ 、ハンセン総合大型株指数構成銘柄 うちサステナビリティ保証を取得している企業 過
半数が、監査法人で なく会計士以外 専門家を起用している[15]。環境工学や気候科学
バックグラウンドを持つ専門家が重要な役割を果たしている。しかし、こ 開放的な市場 課題
も抱えている。AFRC 調査で 、保証業務において適用する基準や保証 水準(どこまで深く
検証するか)が提供者ごとに異なり、投資家に混乱を与える可能性が指摘されている[15]。こ
事態を受け、香港政府とAFRC 現在、保証業務を提供する専門家に対する登録制度や規制
枠組みを導入することを検討している。つまり、香港 市場を開放した後、品質管理 ため 規
制を後から追加しようとしている段階にある。
一方、日本で 金融庁 専門家会議において制度
設計が進められている[20]。制度導入 初期段階において 「限定的保証」という、比較的負担
軽い保証水準から開始し、保証 対象も当初 スコープ1・2 温室効果ガス排出量と、「ガバ
ナンス」および「リスク管理」に関する開示項目に限定される予定である。単なる数値データ 検
証にとどまらず、企業 管理体制そ も が適切に機能しているかを確認することを意図した日
本独自 アプローチである。保証 担い手について 、2025年12月22日に行われた金融審議
会において保証業務実施者を登録制(法人)とし、監査法 人・監査法人以外 いずれも、要件を
満たす場合 登録可能とすることが決定された。[21]。これ 、香港が現在直面している品質管
理 課題を踏まえ、保証 質 標準化を優先する判断といえる。
4. データ収集 仕組みと産業構 違い
香港政府 省庁横断組織(CASG)が構築した「グリーン・サステナブルファイナンス・データソー
スリポジトリ」や「温室効果ガス排出量計算ツール」 先進的な取り組みである[22][23]。しかし、
そ 内容を詳細に見ると、金融機関が融資先や投資先 データを収集するために最適化されて
いる。香港 経済 金融、不動産、サービス業が中心である。金融機関にとって重要な 、融
資先や投資先企業が排出する温室効果ガスを把握することである(これを「スコープ3カテゴリ15」
と呼ぶ)。したがって、金融機関が効率よく中小企業からデータを集めるため 「共通 質問票」
があれ 、データ収集 課題 大きく解決する。中小企業 一度こ 質問票に回答すれ 、そ
れを複数 銀行に提出できるため、重複した作業を避けられる。
一方、日本 産業構 自動
車、電機、素材など 製 業が中心である。製 業にとって重要な 、自社が購入する部品
や原材料 製 過程で排出される温室効果ガス(「スコープ3カテゴリ1」)や、自社製品を顧客が
使用する際に排出される温室効果ガス(「スコープ3カテゴリ11」)を把握することである[24]。例え
、トヨタ自動車や日立製作所にとって必要な 、数千社に及ぶ部品サプライヤーから、部品
ごと 正確な排出量データを受け取り、それを自社製品に割り振るシステムである。これ 、香
港 ような「簡易計算ツール」や「共通アンケート」で 解決できない、極めて複雑な課題である。
つまり、「日本 データ基盤 整備が遅れている」 で なく、「扱うべきデータ 複雑性が桁違
いに高い」 である。日本 、単純なデータポータル(情報を集める場所)で なく、より高度なデ
ジタル報告へ 移行を進めている。日本取引所グループ(JPX) 「JPX ESG Link」を提供し、上
場企業 開示情報へ アクセスを一元化しているが[25]、より重要な 金融庁が進めている
EDINET(有価証券報告書等 電子開示システム) デジタル化である[26]。2027年に向けて進
められているサステナビリティ情報 デジタルタグ付け(XBRL)導入 、サステナビリティ情報を「
PDF 文章」から「コンピュータが計算できるデータ」へと変換する試みである。これにより、複雑
なサプライチェーン データであっても、コンピュータが自動的に読み取り、分析できるようになる
ことで、データ 流通コストを下げることが期待される。香港 ポータルが「情報を一箇所に集め
る」ことに留まる に対し、日本 「情報 構 をデジタル化する」ことを目指している点で、アプ
ローチが根本的に異なる。
日本が香港から学ぶべき実質的な教訓
以上 比較から、香港 事例を日本がそ まま真似すること 適切で ない。しかし、香港 取
り組み 中に、日本が形を変えて取り入れるべき本質的な教訓が存在する。第一に、保証業務
における多様な専門家 活用と登録制度 事前整備である日本 サステナビリティ開示と保証
、香港に比べて複雑な産業構 とサプライチェーンを反映しており、会計士 みで保証業務を
担うこと 現実的で ない。国際的な研究においても、サステナビリティ保証市場で 会計専門
家と非会計専門家が異なる役割を果たしていることが実証的に確認されている。Simnett et al.
(2009) 31カ国2,113社 データ分析から、企業がサステナビリティ保証を取得する際、会計事
務所を選択する場合もあれ 環境コンサルタント等 専門家を選択する場合もあることを示した
[27]。また、Green and Zhou (2013) 43カ国3,008社 炭素排出開示 保証実務を分析し、会
計事務所と専門コンサルタントが市場で共存している実態を記述している[28]。日本 製 業を
中心とした産業構 で 、複雑なサプライチェーン排出量 算定、製品ライフサイクル評価、水
資源管理、生物多様性影響評価など、高度な技術的専門知識を要する領域が多い。これらすべ
てを会計士だけでカバーすること 、能力的にも人材供給 面でも限界がある。したがって、監
査法人以外 専門家(エンジニア、環境コンサルタント、気候科学者等)を排除する で なく、
彼らを金融庁や日本公認会計士協会 監督下に置く制度を創設することで、品質を担保しつつ
人材不足を解消し、かつ専門性 高い保証を実現する道筋を描くべきである。これにより、香港
が現在直面している「保証 質 らつき」という問題を未然に防ぎつつ、会計士以外 専門家
知見を活用できる。香港 経験 、「市場を開放してから規制を後追いで導入する」 で な
く、「規制 枠組みを整えてから、多様な専門家による市場参入を認める」こと 重要性を示して
いる。 第二に、産業構 に適合したデータ連携 仕組みを標準化することである香港 データ
ポータルが「中小企業と銀行をつなぐ」役割を果たしている点に着目し、日本 「部品サプライ
ヤーと大企業をつなぐ」ため データ連携 仕組みを標準化すべきである。全国銀行協会や経
団連が主導し、スコープ3算定における「一次データ(実測値) 交換フォーマット」を標準化するこ
とで、個々 企業が重複してデータを提供する負担を劇的に減らすことができる。これ 「ポータ
ル(情報を集める場所)」を作る で なく、「共通言語(データ フォーマット)」を作ることを意味す
る。サプライヤー企業が一度標準フォーマットでデータを作成すれ 、それを複数 取引先企業
に提出できるようになる。日本 製 業特有 複雑なサプライチェーンに対応するに 、香港型
簡易ツールで なく、報告書(XBRL)作成ツール ような高度なデジタル化技術を活用するこ
とが望ましい。香港 アプローチをそ まま導入する で なく、そ 背後にある「データ標準化
による効率化」という思想を、日本 産業構 に合わせて実装することが重要である。第三に、
官民連携による戦略的な人材育成プログラム 整備である香港 グリーン・サステナブル金融
分野 人材育成を戦略的優先課題と位置付け、政府と業界が協働して多面的なプログラムを展
開している。代表的な が「グリーン・サステナブル金融ケイパビリティ構築支援パイロットスキー
ム」である。これ 2022年度予算で2億香港ドル(約34億円)を充てて創設された制度で、グリー
ン金融に携わる現職者や志望者(学生含む)を対象に研修受講料 補助を行うも である
[29][30]。具体的に 、認定プログラムを修了した個人に受講費用 最大80%(学生 100%、上
限1万香港ドル)を補助し、専門知識習得を後押ししている[29]。対象となる研修プログラム 香
港 大学や国際資格講座など既に19コース以上が認定されており、今後も拡充予定である[30]
。こ スキーム CASG傘下 「グリーン・サステナブル金融センター」によって運営されており、
官民連携で人材プールを拡大する狙いがある[30]。加えて香港で 、金融管理局や証券監督当
局が業界向け トレーニングやワークショップを頻繁に開催し(例:TCFDシナリオ分析ワーク
ショップ等)、金融機関 気候リスク分析スキル向上を図っている。また、香港銀行学会(HKIB)
グリーンファイナンスに特化した資格認定制度を立ち上げ、キャリア中堅層 スキルアップを支
援している[30]。政府主導 奨学金・補助金制度と、多彩な教育プログラム 整備により、香港
で 「グリーン金融ハブ」にふさわしい人材基盤を強化している。
一方、日本で 近年ESG・サス
テナビリティ人材 需要が高まっているが、人材育成 取り組み 必ずしも十分と 言えない状
況である。金融庁が実施したサステナブルファイナンスに関する金融業界向けアンケート調査で
、回答した金融機関 約半数以上がサステナブルファイナンス いずれか 分野で自社 人
材が不足していると回答した[31]。国内外で脱炭素・ESGへ 動きが加 する中で、専門人材
育成が追いついていない現状が浮き彫りになっている。同調査で 、人材育成 ため 取り組
みとして「社内で育成する」と回答した機関が約43%、「中途採用を強化する」と回答した機関が
約20%であり、各金融機関が個別に試行錯誤している状況が明らかになった[31]。現在、日本に
香港 ような政府資金による横断的な研修補助スキーム ない。研修・認証制度についても、
民間ベースで「ESG検定」や金融業界団体 講座がある程度で、国家的な認証制度や奨励策
限定的である。大学・大学院でもサステナビリティやESG金融に特化したプログラム 徐々に開
設されつつあるが、そ 数 欧米や香港に比べまだ少なく、人材 裾野拡大に 時間を要して
いる。日本政府もこ 課題を認識しており、金融庁 サステナブルファイナンス有識者会議で
人材育成 ため スキルマップ策定や教育機関と 連携が議論されている[32]。金融庁 2022
年に「サステナブルファイナンス人材育成スキルマップ」を公表したが、実効性ある施策に落とし
込むに さらなる予算措置や官民 協働が必要である。香港 事例から学ぶべきポイント 以
下 通りである。第一に、政府が明確なビジョン 下で予算を投入し、人材育成をインフラとして
位置づけたこと。第二に、規制当局や業界団体・大学が連携してカリキュラムや認証を用意し、
学習機会を体系化したこと。第三に、人材育成策と市場育成策(開示義務化等)を並行して進め、
需要と供給を同時に創出したことである[29][30]。日本でも、今後サステナビリティ開示やグリー
ン投資が本格化する中で、それを担う専門人材 量・質を高めることが急務である。具体的に
、公的支援による資格取得奨励や研修補助制度 検討、大学・専門機関で サステナビリ
ティ金融コース拡充、企業と教育機関を繋ぐインターンシップやケーススタディ 提供などが考え
られる。幸い、日本 企業や金融機関に 既に環境・CSR部門で 経験者や理工系バックグラ
ウンドを持つ人材が存在する。これら 人材に財務・リスク 知見を身につけさせる再教育を施
すことで即戦力化するアプローチも有効であろう。香港 「グリーン金融タレント育成プログラム」
、既存人材 能力開発と新規人材 参入促進を両面から支える好例である。日本も同様 制
度的支援を導入すれ 、人材不足 ボトルネックを緩和し、サステナビリティ経営・金融 質を底
上げできる可能性がある。
おわりに
本レポートで 、香港と日本におけるサステナビリティ分野 人材育成および制度設計 違いに
焦点を当てた。両地域 置かれた環境や優先するポイントが異なり、制度構築 スピードや人
材育成 在り方にも明確な差が見られる。
香港が先行する中で直面している課題(保証品質 不統一や、特定分野に偏ったデータ基盤)
、日本にとって貴重な「先行事例」である。日本 これら 課題を後追いで修正する で な
く、初期段階からより堅牢で持続性 ある制度を設計すべきだろう。具体的に 、多様な専門家
を活用しつつ品質を担保する登録制度、産業構 に適合したデジタル・データ基盤 整備、そし
て官民連携による戦略的な人材育成プログラムが、日本が香港から学ぶべき核心的な要素であ
る。
一方で、準会員という立場にある私たちが、直ちに制度やルール 改訂に関与できる機会 限
られている。で 、そ ような制約 中で、今何をすべきだろうか。もちろん、基準や実務方針
継続的な学習 不可欠である。基準 今後も変化し続けるため、研修や書籍を通じた知識
アップデート 会計士として 前提条件といえる。しかし、サステナビリティ領域において長期的
に価値を発揮できる人材となるため 鍵 、知識 蓄積だけに ない。それ 、多様な経験を
し、多様な人に出会い、多様な価値観を理解し、第一次情報に触れようとする姿勢にあると考え
る。
なぜ、こ 姿勢が今とりわけ重要な か。それ AI 台頭と深く関わっている。生成AI 、膨大
な情報から妥当性 高い回答を迅 に提示するツールとして極めて有用である。サステナビリ
ティ分野においても、従来型 指標に基づく数値的評価 、今後AIがより正確かつ効率的に担う
ようになるだろう。しかし、AIに 構 的な限界がある。生成AIが得意とする 、すでに言語化
され、社会的に注目され、データとして蓄積された論点である。そもそも論点として顕在化してい
ない事象や、声が小さく可視化されにくい課題に 気づきにくい。人間社会や環境 サステナビ
リティを本質的に前進させるために 、常識や慣習 背後に隠れた「まだ重要視されていない問
題」に気づく力こそが不可欠であり、ここに会計士がAIに 出せない価値を発揮する余地があ
る。実際、サステナビリティが重視されるにつれ、評価に必要な知識 財務領域にとどまらず、環
境、人権、サプライチェーン、データへと広がっている。前提となる「常識」そ も が更新され続
けている である。たとえ 、ヨーロッパで 自然環境が「権利を持つ主体」として扱われる事例
も現れている[33]。こうした変化 、賛否 問題で なく、すでに起きている現実である。こ よ
うな社会や価値観 変化にいち早く気づき、自ら 常識をアップデートする力 、現時点で 人
間にしか持ち得ないも だろう。さらに、私たち自身にも問いを投げかけたい。「価値観が違う」と
いう理由だけで、十分な理解や知識がないまま、嫌悪感だけで切り捨てているも ないだろう
か。AIに尋 れ 即座に答えが返ってくる時代 便利である。しかしそ 反面、自分と異なる価
値観を持つ人と直接出会い、違和感 正体を言語化し、対話を通じて理解を更新する機会 減
少しがちである。知らず知らず うちに「受け身 学習者」になってしまう危険性がある。受け身
学習者 ままで 、サステナビリティを本質的に前進させる新たな視点に気づくこと 難しい。
だからこそ、準会員という立場にある今 段階から、変化を避ける で なく、違いを受け入れ、
能動的に学び続ける姿勢を意識したい。今回 香港視察 、まさにこ 姿勢 実践であった。オ
ンラインでミーティングを設定し、現地 関係者から話を聞くことも可能な時代に、あえて現地に
足を運んだ。そ 結果、第一次情報に触れること 重要性を強く実感した。現場 空気感、課題
切実さ、関係者間 力学といった「文脈」 、画面越し 対話だけで 十分に捉えきれない。
そして何より、そこで得られた気づき 、AIと 対話を重 るだけで 決して得られなかったも
であった。受け身 学習者になりやすいAI時代だからこそ、多様な経験をし、多様な人に出会
い、多様な価値観を理解し、第一次情報に触れようとする姿勢が、将来 意思決定と専門性を
支える確かな土台になると考える。
参考文献
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Governance Reporting Guide,
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[2] Charltons Law (2016) “ESG Guide | Comply or Explain,
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” December 12, 2024.
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[10] みずほ銀行国際戦略情報部 (2025)「香港投資環境資料」2025年7月.
[11] 外務省「シンガポール基礎データ」2024年.
[12] 日本経済新聞 (2019)「香港、IPO世界首位保つ 372億ドル調達し9年ぶり高水準」2019年
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[13] 日本経済新聞 (2025)「香港取引所25年 紅く染まる『自由市場』本土系企業で時価総額8
割」2025年6月27日.
[14] 独立行政法人経済産業研究所 (2021)「カーボンニュートラル 実現を目指す中国」2021年
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[15] AFRC (2025) “Understanding the Baseline – Analysing the Market Readiness for
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[16] Deloitte Japan (2024)「サステナビリティ開示基準 適用対象・適用時期等 検討状況」
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[17] 日経ESG (2025)「ISSB/SSBJ 開示に備えよ」2025年7月8日.
[18] TCFDコンソーシアム「TCFDについて」(2023年11月時点 データに基づく).
[19] KPMG (2023) “Survey of Corporate Reports in Japan 2022,
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[20] 金融庁 (2025)「サステナビリティ情報 開示と保証 あり方に関するワーキング・グループ
中間論点整理」2025年7月17日.
[21] 金融庁 (2025)「金融審議会 サステナビリティ情報 開示と保証 あり方に関するワーキン
グ・グループ 報告」2025年12月22日.
[22] CASG / CDP (2022) “Non-listed Company Sustainability Questionnaire (CASG
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[23] HKMA (2024) “Green and Sustainable Finance Data Portal,
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”
[31] 金融庁 (2023)「サステナブルファイナンスに関する金融業界向けアンケート調査」サステナ
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[32] 金融庁 (2022)「サステナブルファイナンス人材育成スキルマップ」2022年12月.
[33] Kauffman, Craig, Catherine Haas, Alex Putzer, Shrishtee Bajpai, Kelsey Leonard,
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“Spain
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” Eco Jurisprudence Monitor, v2, 2025. (参照日:2026年2月
11日)
https://ecojurisprudence.org/initiatives/proposed-law-for-recognition-of-legal-personality-to-th
e-laguna-del-mar-menor-and-its-basin/
