【海外視察レポート】第1章 香港 社会・経済状況 分析/海外で 経験について考える
要約
香港 社会・経済状況
● 「一国二制度」 もと資本主義体制を維持。
● 中国・国際社会 ゲートウェイとして機能。
● 中東と 経済連携も進展し、ビジネスハブとして 役割が拡大。
経済構 と法制度
● 金融業中心 経済、製 業 少ない。
● 税制優遇(低い法人税・所得税、贈与税・相続税なし)。
● コモン・ローに基づく柔軟な法制度で国際基準に適応しやすい。
働き方と文化
● 残業 概念がなく、効率重視 働き方。
● 家事代行制度が普及し、共働き家庭を支援。
● 高齢者優遇制度が充実し、外出しやすい環境。
● トライアンドエラーを重視し、挑戦を歓迎する文化。
日系企業 進出状況
● 香港へ 進出企業数 多く、駐在員も増加。
● Japan Deskを中心に、監査・税務・法務など 支援体制が整備。
● 税務と会計が密接に連動し、制度面で日本と異なる点が多い。
海外経験 意義
● 言語以上に人脈や視野 広がりが重要。
● 「成功確率50%なら挑戦すべき」という姿勢が印象的。
● 丁寧な仕事と積極的な対話がチャンスを生む。
1. じめに
本レポート 、2025年10月初旬に実施した香港海外視察において香港会計士協会、Deloitte、
PwC、EY、JETRO、NAC、香港大学などを訪問し香港 社会・経済状況や、海外で働くことに関
する様々な知見を収集したも である。香港 実情、公認会計士 国際的なキャリアパス 実
態、活躍状況について検討する。
2.香港 社会・経済状況
香港 「一国二制度」という独特 枠組み 下、中国本土と 異なる資本主義経済と法制度を
維持しており、中国と国際社会を結ぶゲートウェイとして機能している[1][6]。つまり、香港 物流
拠点であると同時に、金融やビジネス ハブとしても重要な役割を果たしている。中国企業
香港を上場先として重視していたり、米中緊張を背景に香港上場 動きがあったりと香港 、中
華系企業が中国やアメリカ市場で 上場を検討する際 代替的な上場先となっている。また、東
南アジア進出 ため 資金調達拠点としても、香港 重要な位置を占めている[1][2]。こうした中
華系企業 動向を受けて、中国 香港をアジアにおけるハブとして重視しており、香港が中国本
土よりも国際的な信頼を得ていることを認識して、そ 特別な地位を維持しようとしている。香港
、中華系企業 国際的な資金調達 場であると同時に、中国が国際社会 動向を把握する
ため 窓口としても価値があると認識されている だ。香港 自由貿易港として内外無差別原
則に基づき外資系企業 受け入れもしている。[3]コロナ後 変化として注目すべき点 、アラブ
首長国連邦へ 輸出額が近年増加傾向がみられることである。これ 、香港がアジア ビジネ
スハブやビジネスマッチング 拠点として、従来 東アジア・東南アジアに加え、中東と 結節点
としても活用されていることを示している[2]。
3.経済構 と産業特性
香港 経済 金融業を中心とした産業構 を持ち、製 業 割合 極めて少ない。こ 点で
シンガポールと多く 共通点があり、高学歴化、専門職中心 労働市場、そして金融業 発展と
いった特徴を共有している。香港 関税がなく、為替も比較的自由であり、国際金融センターとし
て 機能を最大限に発揮できる環境が整っている。
視察時点で 、金融市場 好調さがみられる一方、消費者物価 上昇率 低位にとどまって
いたと 説明を受けた。なお、物価について 公的統計上、2025年10月時点で前年比プラスで
推移していた。証券取引所 好調で利益を上げているも 、実体経済 低迷しており、いわ
「二重構 」が存在している。こうした中、香港 財政状況に 興味深い側面が見られる。現在
財政赤字であるも 、過去に金融業が盛んだったことから、長年にわたり豊富な税収があ
り、財政的なバッファーが蓄積されている。社会保障制度について 日本と 大きく異なり、給与
から 天引き 少なく、社会保険料も確定拠出型 仕組みとなっている。また、財政が黒字であ
れ 、現金で 還付が行われるという、直接的な措置が採用される年もある。
香港 税制 投資家にとって極めて魅力的である。法人税・所得税 比較的低率であり、贈与
税・相続税・キャピタルゲイン税 非課税とされている[1][2][4]。こうした税制上 優遇措置によ
り、香港 引き続きアジア 金融センターとして 地位を維持している。
また、香港と中国本土で 法制度が根本的に異なる。香港 「コモン・ロー(Common Law)」と
呼 れる、判例に基づいて判断する法体系を採用しており、これ 英国統治時代から 伝統に
由来する[5][6]。こ ため、国際会計基準や国際監査基準 採用にも適合しやすい。視察先で
説明によれ 、香港で 会計基準をあくまで「基準」として柔軟に捉えており、ルール外 ビジネ
スがあっても例外として対応する柔軟性がある。例え 基準に当て まらない事象が発生した際
に、基準に当て まらないから拒否するというわけで なく、基準を参考にしてど ような対応を
すれ いいか考える。こうしたアプローチ 、コモン・ロー 判例主義的な考え方に基づいてい
る。
一方、中国本土 制定法に基づく法体系を採用しており、会計や税務に関する法律も香港と
異なる。中国と香港で 会計基準や監査基準も異なっており、こうした法制度 違いが、両者
経済システム 違いを支える基盤となっている。
4.香港 社会・文化環境
香港 働き方 、日本と 大きく異なる。香港で 、雇用における標準労働時間を規制し統制
する法律 ない。そ ため、残業 概念がほとんどなく、メリハリをつけて働くという価値観であ
る。香港 人々 プライベートを大切にする傾向が強く、早く帰宅することが多いため、営業活動
でお酒を伴うような付き合い 少ないようである。基本的に ランチや、
一杯だけ飲めるショート
バーで やり取りが主流である。こ ような働き方や価値観 、AIなど テクノロジーを積極的
に導入する姿勢にもつながっている。効率化 ため ツールや仕組みに対する抵抗が少なく、
むしろ前向きに受け入れる土壌があると感じられた。さらに、トライアンドエラー 精神が根付い
ていることや、金融 中心地であるという地理的要因から情報が密集し迅 な処理が求められ
ることなどから、仕事 スピード、意思決定が早い。オープンマインドでもあり、失敗も成功もすべ
てが学びとされる。多く 経験を積むことが、これから 時代に必要だという考え方が広く浸透し
ている。
香港 特徴的な生活スタイル 一つに、家事代行 文化がある。外国人家事労働者が多く、
住み込み 家事代行スタッフが中間層以上 各家庭に1人いる が一般的であると お話を
伺った。週末に 休暇中 フィリピン人家事代行スタッフが市内にあふれる光景が見られるよう
である。こ 制度により、共働き家庭でも家事や育児 負担が軽減され、仕事と家庭 両立がし
やすい環境が整っている。これ 、香港 働き方を支える重要な社会インフラ 一つと言える。
高齢者に対する優遇制度も充実している。香港で 、60歳以上 居住者等を対象とする公共
交通 運賃優遇制度があり、高齢者 外出を後押ししている。こ 制度により高齢者 社会参
加が促進されている一方で、バリアフリー化へ 投資が後回しにされている可能性も指摘されて
いる。高齢者が容易に外出できる環境が整っているため、バリアフリー設備へ 需要が顕在化し
にくいという逆説的な状況が生じている。日本同様少子高齢化が進む一方で、新旧 建物が混
在する香港で 、都市 魅力がバリアフリー化 遅れ 要因にもなっている。今後、バリアフ
リー分野へ 日系企業 進出が、建設業協会などを通じて現地 需要を調査した上で複数予
定されており、日本 技術やノウハ
ウが香港 バリアフリー化に貢献できる可能性があると考える。
建設現場における足場についても、香港で 伝統的に竹が使用されている。竹 柔軟性と強
度を活かしたこ 手法 、現代 高層ビル建設においても一部で継続されており、伝統技術と現
代建築 融合が見られる。
一方で、建設現場で 竹足場が広く用いられてきたが、安全性へ
懸念を踏まえ、香港政府 2025年に公共工事における金属足場 採用拡大を打ち出している。
今後 建設業界においても技術 刷新が必要であり、日本から 技術提供 機会が高まる可
能性もあると言える。
5.日系企業で 進出状況と存在感
日系企業 依然として香港に進出しており、都市別 進出企業数ランキングで トップ10圏内
に位置している。香港在住 日本人駐在員数 推移 、日本 プレゼンス拡大を象徴してい
る。海外視察で出会った方に話を聞いたところ、1998年頃に 約200人程度 駐在員がいたよう
だが、2025年に 約2万人を超えるまでに増加したと 話を伺った。日系企業が香港に進出する
主な理由として 、中国市場へ ゲートウェイ機能、東南アジア進出 足がかり、税制優遇や規
制 少なさ、日本語によるサポート体制(いわゆるJapan Desk) 充実、そして国際金融セン
ターとして 利便性が挙げられる[6]。
Japan Desk 、日系企業 香港で ビジネス展開において重要な役割を果たしている。多く
場合、駐在員 Japan Deskに所属し、そこを通じて監査・税務・法務・秘書役など 各専門担
当者と連携する。ここでいう「秘書役」と 、会社秘書役(Company Secretary)であり、香港 現
地法人で 任命が義務付けられている。会社秘書役 株主総会や取締役会で議事録を作成し
たり、法定書類 作成・登記・保管など 法務 一面を担う役割を負っている。イギリス系 法
制度に由来する。親会社が監査を受けていない場合でも、子会社が海外に進出すると監査が必
要になるケースがあり、そ 際に秘書役が間を取り持って法的対応を行うことがあり、香港で
秘書役 存在 とても重要となっている。税務と会計 関係についても、香港 日本と 異なる
仕組みを採っている。香港で 、税務 会計 上に成り立っており、会計と税務が明確に分かれ
ていない。税務申告 会計監査を基に承認される形となっている。また、香港で会社を設立する
比較的容易であり、日本 税理士制度と同一資格制度 存在しない。「税務代理人」と呼
れる職業がそ 役割を担っている。税務代理人 主に弁護士や会計士が務める職種である。
6.海外で 経験
今回 海外視察で 、多く 方々とお会いする貴重な機会を得た。そ 中でも、EY 重富氏
やJETRO 越川氏 お話に着目し、若手 うちに経験し、糧としておきたいことについてまとめ
たい。
我々若手会計士 多く 、海外駐在を一つ 夢として抱いている。もちろん、海外で働くという
経験自体が大きな価値を持つが、両氏 見解によれ 、海外経験 本質的な意義 、自分
知らない世界や情報にアクセスし、そ 分野 スペシャリストや人脈と出会う機会を得ることにあ
るという。今回 視察も通常 旅行と 異なり、文化や地域特性を知る機会に 恵まれたが、や
り現地で生活することと比べると、得られる経験に 大きな差があると感じた。海外に行くこと
最大 メリット 、言語習得以上に「経験」そ も であると実感した。
また、両氏以外 方々からも繰り返し伝えられた 、「目 前 仕事に丁寧に取り組むこと」
重要性である。たとえ意味がないように思える仕事であっても、そこに創意工夫を加え、「な
ぜ?」という問いを持ちながら取り組むことで、後 仕事に繋がる瞬間が訪れる。目 前 仕事
に真摯に向き合っていれ 、自然とさまざまなチャンスが巡ってくる。海外駐在 人脈を広げる
絶好 機会でもあるが、そ 活路を切り開くために 、アンテナを広く張り、間口を広げて多く
人と積極的に対話することが重要だという話も印象に残っている。人と話すことで、互いにとって
Win-Win 関係を見出し、最適な落としどころを探る力が求められる。こ 姿勢 、我々会計
士とクライアントと 関係にも通じるも であり、実践する価値 ある考え方だと感じた。
さらに、EY 重富氏 言葉 中で特に心に残っている 、「成功確率が50%あるなら挑戦
するべきだ」という考え方である。香港で トライアンドエラー 文化が根付いており、失敗を恐
れずにまず行動するという姿勢が一般的であることも、こ 考え方 背景にある かもしれな
い。これまで 自分 、成功確率が50%という状況を「リスクが高い」と捉え、慎重になりすぎて
いた。しかし、重富氏 言葉に触れたことで、「50% 可能性があるなら、それ すでに挑戦する
価値がある」という視点に気づかされた。こ 考え方 、単なる楽観主義で なく、挑戦 中にこ
そ成長と学び 機会があるという信念に基づいているように感じた。実際に、新しい活路を切り
開いている方々 多く 、チャレンジ精神にあふれ、失敗を恐れずに行動している。そして、そう
した姿勢が新たなチャンスを引き寄せ、さらなる挑戦 機会を生み出している だと実感した。
こ 経験を通じて、挑戦と 「成功するかどうか」で なく、「挑むこと自体に価値がある」という
考え方が、これから キャリアにおいて重要な指針になると強く感じた。
7.最後に
香港 想像以上に日本と 異なっていた。海外視察前 、アジア 中で日本が比較的進んで
いると考えていたため、そこまで大差 ないと考えていたが、香港 地域特性や社会状況を生
かした発展を遂げているように感じた。
海外視察で得た知見を踏まえ、若手会計士 方々に意識していただきたい行動 三点である。
第一に、日本にいながらも多様な価値観に積極的に触れにいく姿勢を持つことだ。日本 中でも
クローズドな環境に満足していて 、たとえ海外に行く機会があっても人脈 広がりにくいだろ
う。
第二に、ど ような仕事であっても丁寧に取り組むこと、そして自分にとって 挑戦 ハードル
を下げることが重要である。諸先輩方 経験談からも、挑戦 ハードルを下げ、日々 業務に誠
実に向き合っていれ 、チャンス 自然と訪れることがうかがえる。
これらを意識していれ 、キャリアに悩んでいる方も、進むべき道が見えてくる で ないかと
考える。現在 若手会計士に キャリアに悩みを抱える方が多いように感じているが、そ よう
な方にも、また目 前 業務に積極的に取り組んでいる方にも、ぜひ三点を心に留めて仕事に
向き合っていただきたい。
参考文献
[1]PricewaterhouseCoopers Hong Kong『香港 現状と経済成長に向けた見通し』 最終閲覧
2026年3月4日。
[2]日本貿易振興機構(JETRO)『香港 貿易投資年報』最終閲覧 2026年3月4日。
[3]日本貿易振興機構(JETRO)『香港-概況・基本統計』最終閲覧 2026年3月4日。
[4]日本貿易振興機構(JETRO)『香港-税制』最終閲覧 2026年3月4日。
[5]在香港日本国総領事館『香港 概況』最終閲覧 2026年3月4日。
[6]在香港日本国総領事館『香港 経済情勢』最終閲覧 2026年3月4日。
[7]在香港日本国総領事館『香港関係 七つ 豆知識』最終閲覧 2026年3月4日
