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松田修一氏講演会 インタビュー・報告

登録日: 2010.05.27

去る2010年4月14日に、松田修一氏をお招きして、普段、あまり知ることのできないベンチャー企業について講演していただきました。準会員に対する熱いメッセージが込められた今回の講演内容を踏まえたインタビューを以下に掲載いたします。ぜひご一読ください。

転換期を迎える日本とベンチャー企業

 
インタビュー・講演会(2010/4/14)報告 早稲田大学ビジネススクール教授・商学博士 公認会計士 
松田修一氏

講演者略歴
1966年 公認会計士試験第二次試験合格
1967年 早稲田大学商学部卒業
1972年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程単位満了退学
1973年 監査法人サンワ事務所(現トーマツ)入所
1986年 早稲田大学システム科学研究所助教授 91年教授
1993年 早稲田大学アントレプレヌール研究会発足:代表世話人に就任 現在に至る
1997年 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻 教授 現在に至る
(2007年より早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻)
1998年 (株)ウエルインベストメントを設立:取締役に就任 現在に至る

①これまでの経歴
②監査について
③ベンチャー 世界の動向と日本の課題
④会計士とベンチャー
⑤準会員へのメッセージ

① これまでの経歴

Q 会計士を目指した経緯を教えてください。
A もともと法律と会計の接点、経済行為と会計の接点といったような、会計と法律と経済行為との繋がりというものに興味がありました。それは、会計処理・理論を単独でみるような狭い意味ではなく、会計が含まれることになる法律や経済の営みを通してみた広い意味での会計です。そのため、会計士試験に合格した後も、パートタイムで監査法人に勤務しながら大学院に通い勉強を続けましたし、一時期、経済犯の検事になろうと司法試験の勉強をしたこともあります。

Q 教育・研究職に進まれたきっかけとは何でしょうか。
A 30歳頃まで大学院に通いながらパートタイムで監査法人に勤務しましたが、そのうち、公正性を確保しながら倒れそうな会社をどうやって立て直すかということに取り組みたくなって、ある会計事務所に入ることになりました。そこは倒産を回避することを専門とする財務調査の特殊部隊で、約10年間いました。この時期、会計士として中堅・ベンチャー企業に突っ込んでいた時期です。当時、日本でベンチャーの最前線で仕事をしている人はほとんどいませんでしたから、その経験に大学が興味を示し40歳頃に「何でも好きな講義をして良いから、来ないか」と誘われました。そこから大学に籍を置きながら、海外進出した日本企業の調査や、起業家の研究会の立ち上げ、ベンチャーキャピタルの創設など手がけているうちに、日本を魅力ある社会にするためのベンチャー企業の創出やイノベーションに研究の焦点が定まってきました。

② 監査について

Q 倒産を回避することを専門とする特殊部隊に在籍されていたということですが、倒産には粉飾がからみます。そこで、粉飾をみつける、あるいは会計監査全般を通して大切な点とは何でしょうか。
A 粉飾の発生した状況まで把握すること、すなわち会社・業界のビジネスを理解することです。会計というのは経済行為の結果ですから、会計監査において重要になってくるのは、原因の把握であり、そしてその原因と結果(財務諸表)をどうブリッジさせるかということです。この視点を欠くと、粉飾を見つけることなど絶対できません。ですから、原因であるビジネスの実態を掴み、結果である会計と繋げて検証するという、この会計監査の原点を徹底することが大切になります。


Q 今日の日本の監査業界についてどのように見ていますか。
A これまでのように会計士は監査をするのが仕事と考えると、(監査)市場自体が拡大しないことには会計士の仕事は増えません。今、日本国内だけで、そして監査法人だけでみると、厳しい状況です。例えば、直近の側面では、IFRSの導入によりグループ内での会社の上場が認められなくなると、400社ほどが上場を取りやめると推定されます。また、長期的には、日本のグローバル企業が海外への進出度合いを強めるにあたり、日本での収益モデルを確立できないまま日本市場が縮小していけば、海外の提携先に監査の仕事が行くだけで、日本の監査法人の仕事がますますなくなるという事態も考えられます。
しかし、世界で見るとそんなことはありません。世界は成長しており、言わば、世界市場はフィーバーしている状況です。例えば、中国は会計士を9万人ほど養成し、世界中に出て行こうとしています。だから、世界市場で活躍する気概があれば今ほど面白い時代はないのです。この時代の人にとっては、会計士という資格を持ち人生を歩むことがとても楽しい時代だと思います。

③ ベンチャー 世界動向と日本の課題

Q 日本におけるベンチャー業界の動向について教えてください。
A 大きく分けて2つの方向に向かっています。
一つ目は、価値創造型・先端技術型ベンチャーです。これは、高付加価値を創出し高収益を獲得することを目的として創業されるものです。このタイプは、高度な技術力と経営能力が成功の重要な要素です。これまでの日本のベンチャーでは、世界に比べて見劣りしない技術力はあるのですが、それを適切に商品化し販売することができず、また持続的なビジネスモデルの確立もできない、という経営能力の点で問題を抱えていました。しかし、最近、高度なマネジメント能力を有する人たちや、博士号取得者を含む高学歴を持ったハイナレッジな人たちがベンチャーの経営層に入り、高度な経営能力を有したベンチャー企業が出始めています。
2つ目は、ソーシャルアントレプレナー(社会的起業家)に代表されるコミュニティー型ベンチャー、あるいはソーシャルベンチャーです。これは、高収益モデルを創りにくい分野において、社会の安心・安全を支えることを目的として創業されるものです。例えば、介護の分野においては高収益モデルを創れません。高齢化社会の到来に伴い介護などの問題に直面する日本社会にとって、利益獲得のみを本質的な目的としないこの新しいビジネスは必要不可欠のものとなります。また、今後、韓国や中国なども日本のような高齢化社会になります。今、日本が高齢化社会に伴う仕組み、すなわち収益モデルではない会社なり社会の仕組みを先行的に考える必要性は大きいといえます。この新しいビジネスの流れが日本でも少しずつ動き出しています。
加えて、日本のベンチャー業界全般について共通していることは、アメリカや韓国などの主要国に比べて起業率が低いことです。

Q ベンチャーについて日本が抱える課題とはどのようなものがありますか。
A 日本のベンチャーの課題について考える際に重要なことは、マーケットをどう確保していくかという観点を持つことです。世界の中でどのような状況に日本が置かれていて、そして今後どのように進んでいくのか考える必要があります。
現在は、ある意味、世界の経済のなかでオリンピックが行われているとも言える大競争時代に突入しています。このオリンピックゲームでは、今はランキングに入っていないインド・中国・ブラジルなどがこれから間違いなく入ってきます。これらの国の怒涛の追い上げの中で、これまでの日本の従来型のモノづくりにおける優位性は急速に失われつつあります。例えば、自動車でいえば、既に、一部の車種においては韓国メーカーに日本メーカーが品質面で負けているという調査結果が出ています。また中国についても、その躍進に伴い製造業全般における品質面での向上は目覚ましく、日本は後10年で追い付かれ、後20年で追い抜かれると言われています。
また、今後、日本は少子化の影響で高齢化社会をむかえ、人口が減ると予想されます。それに伴い日本市場が縮小することになれば、企業が世界で勝ち残るためには海外に行くしかない。また、高齢化社会に伴う介護などの必要性から社会を運営するコストが高くなり、これまでの体制を継続する限り、必要な税収額も高くなります。
これらのグローバル化時代の大競争と経済構造の変革、高齢化社会の到来という背景のもとで、現在の日本が抱える国・地方の過剰借金、企業の競争力低下、個人の保守的な安定思考などを考えると、まさしく日本社会は、明治維新、第2次世界大戦の敗戦に次ぐ3番目の創業期の真っ只中にいると言えます。

Q このような第3の創業期という現状において、日本のマーケットを確保するためにはどうすればよいのでしょうか。
A まず、国のデザインを持ち、そのもとでベンチャー政策についても国家としての一貫した戦略を持つことが必要です。例えば、世界の大競争に勝ち残るグローバル企業群、日本の経営資源を活かしたミディアムサイズ高収益企業群、高齢化社会対応型ソーシャル企業群を創るというデザインを持ち、そのもとで税制などの制度インフラ改革、風土や意識変革、教育改革について戦略的に考えていくことが必要になります。

Q 国のデザインから求められる、ベンチャー政策上の具体的な課題とはどのようなものでしょうか。
A 例えば、税制面の課題を挙げることができます。
日本に本籍地を有したグローバル企業を創ることで、国民が日本へ誇りを持つことに貢献できます。そのためには、企業の税負担についての国家戦略を持つ必要があります。例えば、現在の実効税率ベースで法人税比較をすると、日本は約40%であり、日本の企業にかかる税負担は主要国間のうちで突出して高いです。その結果、グローバルで活躍しようとする日本企業において、将来、財務戦略として税負担率を下げるために、税金が安い海外に本籍地を移し、場合によっては日本での活動を撤退してしまう企業が出てきます。そのため、企業の競争力の観点から日本の法人実効税率を下げることが課題として挙げられます。
また、利益率最低10%以上で利益額が数十億から数百億規模のミディアムサイズの企業を5千社から1万社創ることで、高齢化社会運営のための税収を確保できます。そして、ソーシャルベンチャーを普及させることで、例えば、高収益モデルを創りにくい介護分野における安心・安全を支えることができます。現在、日本には100億円以上の資産を持っている人が5千人ほどいますので、この人たちがベンチャーに投資することになればかなり大きなインパクトを持ちます。そのためには、投資者の税負担について国家戦略を持つ必要があります。例えば、エンジェル制度というものがあります。これは、最近の法改正により所得控除制度が追加され、投資の一部が所得と相殺されるようになりましたが、ほとんど知られておらず活用されていません。そのため、ベンチャー投資促進の観点から制度の存在ついて啓蒙し、また所得控除枠の拡大などによってエンジェル税制の活用化を図ることが課題として挙げられます

Q 税制以外では何が課題として考えられるでしょうか
A 他に、例えば移民政策を挙げることができます。日本は移民をほぼ受け入れませんが、アメリカは移民政策として、アメリカ国内で100万ドル以上出資する及び10名以上を雇用するという条件に該当すれば永住権を与えるという法律を作りつつあります。日本でも、税収面や社会活動面での貢献の観点から、日本に活力をもたらす人材を受け入れることができるよう法整備を図ることが課題として挙げられます。このように国のデザインからベンチャー政策を考えることが重要と認識しています。

④ 会計士とベンチャー

Q ベンチャー業界で会計士はどのような役割を担うことができますか。
A 会計の役割はバックアップ機能ですから、会計士は起業家による経営を支援することに向いています。この支援役として、会計士には起業家の能力を引き出すことが求められます。

Q その起業家の能力を引き出すためには何が必要でしょうか。
A 起業家の能力を引き出し、ベンチャー企業を成功させるためには、まず、ビジネスを大局的にみる能力が求められます。自分の中にビジネスの全体像を持ち、その技術やビジネスプランが本当に社会の役に立つのかを考えなければなりません。
そして、これから事業を起こそうとする情熱を持った人と付き合うためには、会計士にも情熱が求められます。ベンチャーを支援するためにはこうした熱いハート(Warm Heart)が求められます。一方で、ビジネス全体を適切に支援するためには冷静な頭(Cool Head)も欠かせません。
また、自己の限界を知ることがとても大切です。自分ひとりでは何もできません。自分の能力の足りない部分を補えるようなネットワークを作ることで、総合的支援力ができます。
起業家は志を持っています。皆さんも会計士として志を持ち、Warm HeartとCool Headを持って、起業家と共に成長し感動を共有することができたら、非常に楽しい人生となるでしょう。

⑤ 準会員へのメッセージ

Q 最後に、準会員に対してのメッセージをお願いします。
A 今、振り返ると、会計士ほどやってよかったと思うものはありません。会計というものはポータルサイトであり、決算書に全て入ってくる。会計に関係しないものはないのです。だから、そこから誰とでも組めるし、繋がることができます。もちろん、そのためには会計士としての能力を深めることが必要です。この能力を深める上で大切なことは、自分のやっていることと産業の現実がどのように結びついているかに敏感であること、つまり情報感度を高めることです。この情報感度を高めるということに皆さんぜひ取り組んでほしいと思います。そのためには、新聞を読むことも大事な訓練となります。常日頃から、記事の内容が経済と、また会社・業界とどう結びついているかを意識しながら読むだけでも大分違ってくると思いますよ。
また、お互いに、頼まれたら徹夜してでもやってくれるような人間関係のネットワークをつくることにもぜひ取り組んでほしいと思います。それが皆さんのキャリアをつくることになります。キャリアをつくることと人間関係のネットワークをつくることは同じことです。
今という大変面白い時代に、会計士という資格を持ち人生を歩むことはとても楽しいことだと思います。いかに人生を楽しむか。皆さんはその入り口に立っているのです。

松田先生、貴重なお話を聞かせてくださいまして、ありがとうございました。

(文責:東京分会 幹事)

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