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第13回 西武鉄道 有価証券報告書虚偽表示事件 ― 初心を忘れない

登録日: 2006.05.01

~事件の概略~
2004年6月29日、西武鉄道は関東財務局に対して、グループ中核企業コクドが保有していた西武鉄道株の比率を過小に記載した有価証券報告書を提出した。その後虚偽表示が発覚し、最終的には西武鉄道株式の上場廃止を招いた。当該事件が発生した原因の一つとして、西武鉄道の監査が29年にわたって同一の個人会計士によってなされていたという点が挙げられている。

西武鉄道事件が起きたとき、私は会計士二次試験の受験真っ只中でした。このニュースを聞いて、会計士という職業の社会的責任の重大さに身震いしたのを今でもよく覚えています。
あれから約2年。残念なことにその間にも、カネボウ粉飾決算事件、ライブドアショックといった、会計士が活躍する分野に関連すると思われる社会的な大事件が立て続けに起きてしまいました。西武鉄道虚偽表示事件は、これらの事件によって世の人々の記憶の隅に追いやられた感が否めません。しかし、我が国の監査制度が見直されるきっかけとなった事件の一つであり、忘れてはならないものであると私は思います。
この西武鉄道事件については、堤義明氏のワンマン経営によって内部統制が機能していなかったところが大きいと言われていますが、会計士の問題も無視できません。西武鉄道の監査が長年にわたり個人の公認会計士によって行われていたために、虚偽表示の事実を発見できなかった、あるいは公表できなかったのではないかということ――つまり精神的独立性の問題です。
長年、同一の会計士が監査を行うことは、精神的独立性を害するおそれがあります。しかしながら、会社とコミュニケーションをとり信頼関係を築くことは、監査において不可欠であり、有効かつ効率的な監査を実施できるというプラスの面も否定できないのです。受験時代に監査論として一通り机上で学んできたことではありますが、会計士として現場に出て会社の方々とお話をしてその思いは強くなりました。
監査慣れしていない会社の方に質問をすると、監査とはあたかも取り調べの一種であるかのように身構えられてしまいがちです。しかし、何度も顔を合わせ打ち解け合うようになると、普通に質問していただけでは得られなかった、監査上役立つ情報まで教えてくださることがあります。ここにはとても書くことの出来ないような会社の裏話を、会社の方からこっそりと教えていただいたとき、会社の方との距離がぐっと縮まったような気がしました。

しかし同時に、ふと心配になったことも事実です。精神的独立性はこのような危うい均衡のもとに成り立っているものなのかと。会社の方と親密になることはコミュニケーションの維持という観点では好ましいことですが、その一方で公正不偏の態度を揺るがす危険を孕んだもの――諸刃の剣であると思ったのです。
就職活動のとき、面接官に「近年の会計士の不祥事を起こさないために、あなたが考える会計士として一番大切なことは何ですか」と問われ、私はこう答えました。「自己の信念を最後まで貫くことです。そうすれば、会社との距離を、近づきすぎず遠すぎず保つことが出来ます」と。
言うだけなら至極簡単。しかし実際に精神的独立性を維持し続けるのは大変なことだと、会計士として仕事を始めてからまだ数ヶ月という身の上でありますが感じました。でも、5年後、10年後、監査人として現場に立っていたとき、面接を受けたときの初心を忘れることなく、監査人は何か、会計士とは何者なのかを、常に自分に問いかけ続けていこうと思っています。

(文責:吉岡 由佳子)

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