日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 会計業界 )

世界で活躍できる会計士になるために

2018年は、日本における公認会計士制度発足から70周年の節目の年であり、かつ、4年に1度開かれる世界会計士会議の年です。
準会員会では、日本公認会計士協会の関根愛子会長の“海外で活躍できる会計士を増やしたい”という趣旨の発言からどのようにすれば海外で活躍できるのかをより具体的にお聞きしたく思い、同時に全国の準会員が興味を持っているテーマ(特に関根会長が若手会計士だった頃の話)も合わせて、11月7日に世界会計士が開催されているシドニーにて、直接インタビューをいたしました。
インタビューの内容は以下のとおりです。

1. 国外で活躍できる会計士になるためには何が必要だと思いますか。

国外で活躍するといっても、どういった目的で活躍しようとするかによって必要なものは異なります。これは、国内でも同じであり、その点については後でもう少しお話するとして、ここでは一般的に必要なことについて話をしたいと思います。
まず、国外では日本語は通じないので、何をするにも、コミュニケーションツールとして、その国で通じる英語等の一定の言語力が必要になります。英語圏以外では中国語やフランス語、スペイン語といった言語が必要になる場合もあります。
また、言語力以上に重要なものとしては、(1)文化・制度・歴史等が異なる環境の方の意見を理解しようとする姿勢、(2)仲間になろうとする姿勢、(3)自分の意見を述べることと考えています。日本の会議では、黙って頷いているのがよしとされる文化がありますが、他の多くの国での会議では自分の意見を述べる、それも相手の意見を聞いたうえでそれを踏まえて発信する事が会議への参加の意義となります。
海外での活躍には英語力があれば大丈夫と思われがちであり、勿論、最低限の英語力は必要となりますが、活躍していくためには、むしろ上記の3点がより必要になってくると考えています。

2. 海外業務に携わるにあたって、IFRSの知識やUSCPAといった資格が必須なのでしょうか?

たとえばIASBで活躍しようと考えている人にとってはIFRSの知識は不可欠ですが、海外業務を希望する人に一律に最初から必要なものであるとは思っていません。
現在、日本の会計基準はIFRSにかなり近づいています。両者は違うとよく言われますが、違う点だけがかなり強調されているのではないかと思います。言語でいえば、日本と英語ほどは違わない、関東弁と関西弁位しか違わないのではないでしょうか。
したがって、日本の会計士としては、まずしっかりと日本の会計基準を、字面だけではなく、実務に照らしつつ、なぜそのような基準になっているのかという根底の部分、すなわち結論の背景や解説まで含めて理解する事が大切です。日本の基準について深度ある理解が出来ていれば、IFRSを学んでもどこが違うのか等、すぐに理解ができるかと思います。
USCPAの資格を取る事も有用ではありますが、日本人が海外業務に携わるにあたって必須ではないと考えています。精神論になるかもしれませんが、先ほど述べた、理解しようとし、違いを受け入れようとする姿勢や相手への意見を踏まえた上で意見を述べていくことの方が必要であると考えています。

3. 特に海外で活躍する場としてどんなキャリアが考えられるのかを教えてください。

監査法人から海外のネットワーク事務所に派遣され、駐在や現地チームに参加して活躍する事が一つの方法として考えられますが、その他にも、国際的な機関等に派遣される方法等もあります。
この場合の国際的な機関には、身近な所で考えると、たとえば、ISAやIFRSなどの国際基準を作成している機関があります。日本の基準もそうですが、こうした国際基準は、スタッフなどが原案を作り、それをもとに委員等が様々な議論をして作成されます。「国際」基準ですので、海外のどこかの国ではなく、様々な国のメンバーが参加して作られています。日本としては、こうした基準の作成に日本のメンバーも参加していくことが重要と考えられていますので、基準作成に関与するというキャリアも考えられます。
また、国際機関に入ってその組織の財務や経理の仕事をするといった道もあります。日本では、財務や経理の仕事は、その企業等に新卒で入った方が担うことが多いですが、海外ではそのための専門家を雇ったり、そのアドバイスを受けることが多く、国際機関も例外ではありません。公的な機関に限らず、たとえば東南アジアの国々では、現地の企業の財務や経理の支援業務を行うといったビジネスをしている日本の会計士の方も多くいます。日本では、会計士というと監査法人で監査をしているというイメージが強いと思いますし、試験に合格した当初は監査法人に所属する方が多いですが、国際的には会計士は監査以外の仕事も幅広く行っており、日本でもその仕事が様々な分野に広がりを見せています。
日本の経済規模にからすると企業や公的な組織の財務・経理を会計士が担っている割合は世界的に比べても低く、これから活躍できる場はたくさんあると感じています。なお、現在、準会員の方の多くは、膨大な情報の信頼性を確かめるために、ともするとチェックをする仕事に追われているように感じられているかもしれませんが、今後、国際的にも国内においても、AIの活用等で、チェックそのものは少なくなってきて、その結果を元に高度な判断をしていく専門家ならでは仕事の比重が増えてくるものと予想していますので、そうした能力を磨く努力を続けていくことが必要と考えています。

4. 海外で活躍するためには、会計以外のスキルで何が大事になってくると考えていますか?

先ほども触れましたとおり、海外で活躍するためには、英語などの一定の語学力を身に着け、自分の意見を述べる事が大切になってきます。英語はそれほど得意ではないという方もいるかもしれませんが、英語はコミュニケーションの道具として使って身につけていくものであり、会計士という専門性を持ったコミュニケーションする中身がしっかりとあれば、一定のレベルでもコミュニケーションすることはできます。
また、皆さんも「日本語をどのようにして身につけたか」と聞かれても答えられないように、言語とは使って徐々に慣れていくものであると思います。年を取れば取るほど一般的に習得するのが困難になるので、早い段階から始めることが有用です。国際的に活躍している会計士の方でも、その大多数ははじめから英語が出来た訳ではなく、業務で必要な環境に直面し、使っていく過程で言語の壁を克服していったのが現実でしょう。慣れの部分も大きく、外国人にも物おじせずに話す事が大事です。例えば、近くにいる外国人に日常会話でも良いので話して行く事が必要ではないでしょうか。仲間内で英語を話すのが恥ずかしいのであれば、仲間のいないところで勉強すればよいでしょう。
会計士に限らず、会計の仕事は一般に考えられているより国際的です。既に触れたように、会計そのものが国際的に近づいて、会計も監査基準もいわば国際共通語となっており、日本企業の経理の方たちは、子会社等への駐在といった経験のほか、帰国後も海外の人と連絡を取り合いながら仕事する事が多いですし、監査法人においても同様ですので、英語でのコミュニケーション力を身につけておけば、仕事の広がりができると思います。
ただし、だからといって、若い頃は、やることが限られてしまわないよう、国際や海外などに縛られすぎないほうが良いとも思っています。私が若い頃、国際会議で韓国の方が英語で上手にスピーチをするのに感心したところ、その方が、韓国は、日本と異なり経済規模が小さいため、様々な仕事をするのには、英語を使えることが必要不可欠と考えて英語を身につけたとおっしゃっていました。日本も将来的には少子高齢化に伴い国内市場の規模が世界と比較して段々小さくなっていくことも想定されます。会計という世界共通の言語の専門家である会計士が様々な仕事をしていくには、国内外問わず活躍できるようにしておく必要があるのではないかと考えています。

5. 準会員の多くはファーストキャリアとして監査法人を選択しますが、関根会長が考える、若い年次の間に監査法人で身に着けておきたいスキルや知識等は何かを教えてください。

現場を自分の目で見て会社の人とよく話をしてほしいと思います。今やパソコンでデータを取れる時代であり、それにより仕事が完結できたと思いがちではありますが、会社の人と話をして、工場等の現場に行くことによって、初めて見えてくるものがあります。
加えて、手続を実施する際には、去年実施していた手続を単純に繰り返すのではなく、なぜやっているのか考えながら、わからなければ自分の上司に聞きながら実施してほしいと思います。同期同士で話すことも大切ですが、同じ程度の知識しかもっていないため間違っていることもあるので、わからないことは積極的に上司に聞くようにしてください。
また、与えられた仕事においては、時間をコントロールして行うのも大事です。若い頃はチェック作業を行うことが多いため、想定されているより時間がかかると、それを自分の能力のなさと思ってしまいがちですが、会計士の能力は作業が早いか遅いかで決まるわけではなりません。作業を行った結果、懸念されるところがないか等を見極め判断することが重要であり、そのため時間がかかることもあります。とはいっても、時間以内でチームとして仕事を終えていくことも重要であり、自分の仕事をどの位で終える事が出来るのか予測し、量が多すぎるのであれば必要に応じて上司に相談する事も必要です。
最後に、文章力も大事です。監査調書はサブノートではありません。簡潔に自分の考えをまとめる事が日本人は苦手ですので、意識すると良いと思います。

6. 「会計士は過去のことをみるのは得意だが、将来の見積もりは不得意」という批判が以前日経の新聞に掲載されました。関根会長の当該批判への見解を教えて頂けないでしょうか。

この点を考える場合、まず、将来の見積もりはどのように行うのかということを考える必要があると思います。会計士は、監査業務等において、様々な観点から、過去の情報が適切に財務諸表に反映されているかをみています。そのため、一般の人よりも、そうした点については得意であり、過去の起こった事実を客観的に分析することもできます。
他方で、将来の見積については、一般的に考えても、過去の分析ほど精緻化する事は難しいものです。経営者も将来を正確に予測出来るわけではありませんが、会社を経営していく上では、常にこの先のこと、将来のことを考えていく必要がありますので、過去の実績や経験、将来起こりうる事象とそれらへの対応体制等を考慮して将来を見据えた経営を行っており、将来の見積もりも、そうしたことをもとに行っているのではないかと思います。会計士は、経営者のこうした見積もりについて、客観的な目でその妥当性を判断していかなければなりませんが、過去の事実とは異なり、客観的に確認できることが少なく、事業の実態をみきわめていくことも必要であり、経験の積み重ねも必要であるため、難しい点も多く、そのため不得意だという批判が出てくるのではないかと思います。
しかしながら、現在の会計においては将来の見積もりを行っていくこと、監査においてその妥当性を確認していくことは欠かせませんし、そうした経験をする機会も多くあると思います。したがって、こうした批判は、会計士の業務への期待の大きさともとらえて、業務の中で与えられた機会を生かして、克服すべく経験を重ねていくことが必要であると考えています。
なお、よく似た批判で、会計士は経営を知らないともいわれますが、企業で働く方もはじめから経営を知っているかと言うとそうではないと思います。実は、会計士は経営者と話す機会も多く、監査における企業環境の理解等全体を見る機会が多いことから、経営というものを客観的な立場で見ることができる存在ですので、企業で働いているより、経営を知る機会はむしろ多いのではないかと思っています。
このように、会計士は、本来は、学ぶ機会があるにも関わらず、日々の業務、作業に追われていてしっかりと対応出来ていないという点もあるのではないかと感じています。せっかくの機会を生かして会計士に対する期待に応えていくよう心掛ける必要があると思っています。

7. 若手の会計士に向けてのメッセージをお願い致します。

「自分を信じて前向きに!」何が一番というものはなく、自分の置かれた環境や自分の関心等から、自分に合った働き方で努力をしていくのが大切であり、自分を信じて常に前向きに日々を過ごして頂きたいです。

編集後記

インタビュー冒頭時、現会長という事もあり非常に緊張しましたが、常に優しく接して頂き、終始穏やかに進める事が出来ました。
関根会長が仰っていた、「相手の話を踏まえて自分の意見を述べる事がチームでの貢献につながる」という点は、普段の業務では意識しないと難しいものですが、「将来的に、チェックする作業よりチェックした資料をもとに判断する作業が増える」と仰っていた点に繋がるものだと痛感しました。
昨今、AIの台頭や不確実性といった言葉を頻繁に耳にしますが、会計監査のプロフェッショナルとして、深度のある理解に基づき的確な判断を実施する事・起こりうる可能性やその対応策をクライアントに丁寧に説明する事がより重要になるのではないかとインタビューを通じて再認識しました。
今回インタビューの機会をくださった、関根会長をはじめ、関係者には厚くお礼を申し上げます。
余談となりますが、シドニーで開催された世界会計士会議では、名前の通り世界各国から6千人を超える関係者が参加し、日本からは105名とセレモニー時には世界で2番目に参加者が多い国として紹介されていました。
次回は4年後にインドにて開催予定です。

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