日本公認会計士協会 準会員会

インタビュー
( 経営者・著名人 )

◆動画連動インタビュー 第1回 ~小杉俊哉氏~

小杉俊哉氏

慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)
合同会社THS経営組織研究所代表社員

小杉俊哉氏は、早稲田大学法学部卒業後NECに入社。海外営業や国際法務の業務に従事した後、30歳の時私費でマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学し、スローン経営大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長を経て39歳で独立。慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科准教授を経て現職。学生を指導する傍ら、数社の社外取締役、社外監査役を歴任。人材育成、組織・人事コンサルティングに携わられている。

 

 

準会員になった若者たちの多くは大手監査法人や大手税理士法人、東証一部上場の大企業で働いている。実際に働いてみると組織の中で自分の価値をどうやって出していけばいいのか悩む方も少なくないと思います。今回は『起業家のように企業で働く』を出版し話題になっている小杉俊哉氏にお話を伺いました。今回のインタビューが大きな組織の中でどうやって働いていくべきかを考える一助となれば幸いです。

 

――小杉俊哉先生はご自身の著書の中で「起業家マインド」について触れておりますが、先生は就職した当初から起業家マインドを重視していらっしゃったのでしょうか?

 

まったくそんなことはなかったです。このままずっと会社でサラリーマンとして働いていくのだろうな、と思っていました。ただ、最終的には社長になってやろうと思っていましたね、結構本気で。国際的なメーカーで世界を便利にしていきたいと思っていました。

 

――では、起業家マインドの萌芽はどこにあったのでしょうか?

 

英語を勉強するときでしょうか。当時、自分でこれが起業家マインドだと意識したわけではないのですが。とにかく海外へ出たかったのです。そこで、入社当初から、海外単独渡航基準を満たすため、英語を徹底的にやり、入社8か月でTOEIC500点台から300点以上UPさせました。担当国がインドで、英語圏だったことも幸いでした。国際的な会社であることを徹底的に利用しました。

 

――その後の、起業家マインドによる成功体験としてどのようなことがありましたか?

 

起業家マインドの1つに、自身の市場価値を意識するというものがあります。法務部でコンサルのような仕事を多く請け負ったことがきっかけで、経営コンサルタントになりたいと思うようになりました。そのためには自身の市場価値を磨くべく、ロースクールではなく、MBAをとる必要があると考えました。部門推薦によって社費でアメリカのロースクールに行ける権利があったのですが、会社を辞め私費留学をする決断をしました。

 

起業家マインドの中には、「なんとかなるだろうと思い、最後はなんとかする」というものがあります。留学にあたってGMAT®で最低600点取らなければならないところが400点台しか取れなかった上に、TOFELも規定の点数に達していませんでした。予備校の授業も社費派遣で会社から予備校費用を出してもらって、一日中勉強できる連中に対する焦りを感じたりして、ただ時間だけが過ぎていきました。とにかく絶望しかなかったです。それでもエッセーだけは誰よりも手間をかけて、面接も完璧に準備をして、留学を決定させることができました。ほとんど奇跡のようなものでした。

 

MBA留学中は投資銀行のインターンを希望しておりました。ただそれ以前に授業についていけず、ほとんどEまたはFの成績でした。開校史上最悪の成績で、総長直々に警告文を送り付けられるほどでした。それでもなんとか卒業することができました。また、投資銀行のインターンに行くのは銀行出身者が多くを占め、メーカー出身など相手にされないのが当たり前でした。私は15社落ち続けても諦めず、最後の16社目でモルガンスタンレーのインターンに行くことができました。

 

――そのような先生ご自身の様々な経験に、他の人の起業家マインドによる成功事例も加えて、体系化したものが、著書『起業家のように起業で働く』となったのですね。先生はその後、経営コンサルタントになられましたが、現在はご退職され、経営者であると同時に個人事業主として働かれております。起業家マインドからは話が逸れてしまいますが、先生が現在の道に進まれた理由を伺えますか。

 

一番の理由は、自分にとってこの働き方が合っているからです。ベンチャーを支援したり、大企業でセミナーを行ったり、投資を行なったり、正社員を雇わない分、リスクはあまり負わないながらも自分の知識を活かし、世の中に貢献できる仕事だと思っています。

 

例えば、ベンチャーを立ち上げ成功させるには、上手く年配の方に力を借りることが必要ですが、私は得意ではありませんでした。また、大手で経営コンサルを続けるという選択肢は、どこか知識の披露のような雰囲気があり、会社の最終的な成果に対しては責任を負わないという点で私には合いませんでした。

 

――準会員が、起業家マインドを養うために、今日からできることとはどんなことでしょうか?

 

まずは、与えられた仕事を120%完璧にこなすことが大前提です。その上で、MUSTなことをやるだけでなく、CANなこともやる。会計監査以外にできる+αのことを見つけ、行動する。たとえ明日会社が潰れても、自力で食べていけるような市場価値を身につけていく。こういったことが極めて重要です。

 

――+αといったものは、どのように見つければよいでしょうか。

 

自分の興味ある分野があれば、それを+αにします。たとえばITなら、ITの企業をみることができるよう、上司に主張し続ける。たとえば外資系企業なら、TOEICで結果を出し、それを上司に突き付けて主張し続ける。

もし、自分の興味ある分野がわからないのなら、意識的に環境を変えてみて貪欲に興味ある分野に出会う確率を高めます。たとえば、転職してみる、留学してみる、というのも選択肢の1つです。

 

――起業家マインドに関して、なにかエピソードなどありますでしょうか。

 

某監査法人、社員を相手にセミナーを開いたことがあります。お題はキャリア・自律でした。ところが、懇々と自律の重要性を説きましたが、誰も反応を示しません。起業家マインドというより、サラリーマンマインド。いえ、サラリーマンマインドを超えて、お役所マインドといった感じでした。なんとその監査法人は、セミナー直後に潰れてしまいました。

監査業界は、良くも悪くも、起業家マインドがなくとも、やっていけるように見える業界です。それだけに、起業家マインドを高く持たないと、恐ろしいことになります。準会員のみなさんは、ぜひ、起業家マインドを意識してお仕事に励んでいただきたいと思います。

――キャリアを考える上で大変参考になりました。本日はお忙しい中、インタビューに応じていただきありがとうございました。

 

 

◆プロフィール

小杉俊哉(Toshiya Kosugi)

 

1958年生まれ。82年に早稲田大学法学部卒業後、NECに入社。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院 湘南藤沢キャンパス 政策・メディア研究科准教授を経て現職。専門は,人事・組織、リーダーシップ、人材開発、キャリア開発。企業向けのリーダーシップ研修、キャリア自律研修の受講者は10,000人を超える。組織が活性化し、個人が元気によりよく生きるために、組織と個人の両面から支援している。

 

主な著書に『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ3.0』(祥伝社新書306)、『30代の働き方には挑戦だけが問われる』(すばる舎)、『29歳はキャリアの転機』(ダイヤモンド社)など。

 

 

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