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合格発表を待ちながら 第2回 監査プロジェクトのリーダー、インチャージ

登録日: 2018.09.23

1.はじめに

早いもので9月も後半になり、合格発表まであと2ヶ月を切りました。
論文式試験受験生の皆様の中には、監査法人の説明会にも足を運ばれた方も少なくないと思います。
私も受験生時代、合格発表前の説明会に幾度か参加したのですが、そこで決まってリクルーターの方から伺いましたのが「とりあえずインチャージ(主査とも呼ばれる現場責任者)は経験しておいた方がいい」というアドバイスでした。
会計士試験合格者はまず実務要件を充足するために監査法人に所属することが多いですが、監査法人所属者の中には修了考査合格後すぐ転職するという方が一定の割合で存在しています。
対してインチャージという立場には修了考査受験年〜修了考査合格後頃に就任することが多いため、上記のアドバイスは監査法人からの転職引き止めを目的としたものなのかな、と当初は考えていました。
しかし、実務に従事し、インチャージの方々の業務を間近で見たり、その業務のお手伝いをしたりするうち、このアドバイスには転職引き止め以外に「インチャージの業務への習熟で獲得できる重要なスキルが存在するので、経験してみることは大事」という意味が込められていることがわかってきました。
今回は準会員会幹事(※)が監査法人の一スタッフという立場として見たインチャージ像と、インチャージの業務を通じて得られるスキルについて筆を取ってみました。少々長いですが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

※準会員会幹事とは:
全ての公認会計士は日本公認会計士協会の会員となることが義務付けられています(公認会計士法第46条の2)が、まだ登録を行なっていない公認会計士試験合格者についても日本公認会計士協会に所属することが認められています。
所属手続きが完了した公認会計士試験合格者は、日本公認会計士協会準会員会所属の同準会員という立場で協会に関わることとなります。
そうした準会員の中で、一部の有志が準会員会幹事として、準会員の資質向上・準会員同士の交流などに資するような活動を実施しております。
つまりこの文章を執筆しておりますのは、数年前に公認会計士試験を合格し、現在公認会計士として登録するための準備期間中という、最も受験生の皆様に近い立場の日本公認会計士協会関係者というわけです。

2.監査チームとスタッフ業務

まず、前提となる基本的な監査チームの構成について記述します。(以下の構成は監査法人・チーム等によって異なります)

① パートナー
監査チームの最高責任者です。
パートナーは最終的に監査報告書にサインする立場であり、全体的なレビューを行うと共にインチャージに対する監査方針の指示を行い、また経営者と直接ディスカッションを実施したりするという、監査の最高統括的な役割を担っています。

② インチャージ
監査チームの現場責任者です。
インチャージは往査の責任者であり、監査計画の立案から監査結果の取りまとめまでを行います。 
現場ではクライアントの概括や売上関連・見積りが関連する科目等重要科目の監査手続を実施し、またスタッフに作業指示を行う立場となります。

③ スタッフ
主に実際に監査手続を担当する立場です。
スタッフは基本的にインチャージの指示を仰ぎつつ、インチャージによって指示された科目に対する監査手続を実施していきます。

新規に監査法人に入所したスタッフは、最初のうちは現預金や借入金といった、監査に不慣れな状態でも対応できるような簡単な手続で検証可能な勘定科目を担当し、監査手続に慣れていくに従って徐々に営業費用、人件費、固定資産といった複雑度の高い科目が割り振られていきます。
そして数年後には全ての科目について手続が実施できるようになり、インチャージとしてクライアントを任せられるようになる…というのが監査人としてのステップアップの一様式となります。

この様式はスタッフとしての立場から見れば正解であり、またこれらが経験できれば実務経験としては十分というようにも考えられるでしょう。しかし、インチャージという立場から見た場合、話は全く変わってきます。

3.多岐に渡るインチャージ業務

まず、インチャージとして監査手続を立案するに際し、自身が理解できない手続をスタッフに割り振るわけにはいきません。
なので、インチャージは監査手続については当然熟知しており、全ての手続を実施できるだけの能力を備えていることが必要となります。
さらに、スタッフにとってわからないことがあった場合、インチャージはスタッフの疑問に対応できるだけの能力を備えている必要があります。
そうでなければ適切な監査手続が遂行できないためです。
つまり、スタッフ業務に従事することによってできる実務経験はインチャージにとっては最低限の前提条件でしかない、と言えてしまうのです。
では、それだけの能力を備えたインチャージが従事する業務とは何か。
無論現場での監査手続も実施しますが、それ以上に重要となるのが監査手続の前後に実施される各種業務です。
まず、監査手続をスムーズに実施するためには、事前に監査計画を適切に立案することが必要となります。
そのためには、クライアントの経営環境やビジネスモデル等を適切に理解し、その上でクライアントの監査にあたってはどういうリスクがあり、どういう科目を重点的に検証していくことが必要かという点を洗い出していくことが前提となります。
また、往査に向かう時期をクライアントとの事前交渉も含めて決定し、それに合わせてスタッフのスケジュールを確保するというような調整業務も発生します。
さらに監査を効率的に実施するためには、インチャージはスタッフの能力を理解し、スタッフに対応可能な手続を割り振ることができる必要があります。
業務に従事し始めたばかりで監査手続に不慣れなスタッフに売上のような複雑な科目をいきなり割り振った場合、付きっきりで指導しながら手続を進めたり、場合によっては手続を代わりに実施したりすることが必要となり、結果的に監査が非効率となってしまうためです。
また、スタッフにとってもこれまでの実務経験を無視した監査手続を振られてしまうことは、適切な成長に繋がりません。
(その意味でスタッフの適切な成長はインチャージの力量にかかっている部分がある、ともいえます)
加えて現場でのイレギュラーが発生した場合、インチャージにはそれをパートナーへの報告・相談などを含め、適切にフォローする業務が追加されます。
こうして往査を終えた後も、インチャージには実施した手続の取りまとめという業務が待っています。
手続きに欠けがあった場合はフォローし、監査の過程で気付いた事項があったら報告内容をまとめ、監査結果を最終的に審査に耐えられるだけの内容を持った報告書とすることが求められます。
以上のような業務を(パートナー等からの助けを借りつつも)全て行わなければいけないため、インチャージは大変だというように言われます。
では、その大変なインチャージを経験したほうがよい、とする理由は何か。

4.プロジェクトとして見た監査業務

それは、監査をプロジェクトとして捉えた場合、インチャージの立場はまさにプロジェクトリーダーのそれであり、業務内容はプロジェクトマネジメントそのものだから、というのがその答えなのかな、と思います。

監査は1会計期間(多くは1年間)という決まった期間を1サイクルとして実施される、クライアントの財務状況が自身の報告通りであるかを検証するというプロジェクトであり、期間や目的が明確であるという点で計画の立案をスムーズに行うことができます。
また、計画の立案を通じてプロジェクトの対象を理解することやプロジェクト実施のために必要な手続の検討といった、プロジェクト遂行のためのノウハウを体得できるでしょう。
加えて特に金融商品取引法監査の場合、本番となる期末会計監査の前に四半期レビューという3ヶ月ごとの検証作業や内部統制の整備・運用評価というクライアント業務の全体像や実態をより明確にする機会があるため、いわば二重にPDCAを回すような効果が制度的に担保されており、プロジェクトを円滑に実施するための適切なプロセスを体得できると考えられます。
さらに、インチャージはパートナーと経営者や監査役とのディスカッションの場に同席する機会が多くあります。
こうした機会で役員との対話を経験し、それぞれの考え方を知ることは、やはりクライアント理解にとって重要であると同時に、別のクライアントの上席の方と渡り合うためにも重要な経験となるはずです。
これらの結果、パートナー等の助けを借りずに独力で監査を実施できるだけの能力(知識・経験)が身につく頃には、例えば経理業務の課長職や部長職、ベンチャー企業のCFOなどといった役職のような、マネジメント能力が必要とされる職務をこなすのに必要な能力は十分身についていると考えられます(業界や現場の理解は必要になるとは思いますが)。
そして、そうしたプロジェクトマネジメント能力の体得に必要な業務をほぼ確実に、上からのサポート付きで経験できるという点で、資格を取得してからも監査法人に所属し、インチャージを経験するということには大きな意味があるのでしょう。

 

5.終わりに

もちろん資格を取得してからやりたいことが決まっているような場合、監査法人を修了考査合格後すぐ卒業するというようなあり方はあって然るべきだと思います。
ただ、後々の働き方の可能性を広げてみるためにも、リクルーターからのアドバイス通りにインチャージを経験してみるのは面白い選択肢と言えるのではないでしょうか。

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